こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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パーソナル・スペースは誰もが持っている空間。 侵されるとストレスや病気の原因にもなります。

現代の「縄張り」−パーソナルスペース

山梨医科大学医学部助教授

渋谷 昌三 氏

しぶや しょうぞう

渋谷 昌三

1946年神奈川県生れ。72年学習院大学文学部哲学科卒業。77年東京都立大学大学院人文学科研究科心理学専攻博士課程終了、文学博士。現在、山梨医科大学医学部助教授、学習院大学講師。非言語コミュニケーションを基礎とした「空間行動学」という研究領域を開拓。主な著書に『しぐさ・動作・ふるまいの心理学』(88年、日本実業出版社)、『聞き上手の心理学-つきあい上手になるために』(同年、講談社)、『人と人との快適距離-パーソナル・スペースとは何か』(90年、日本放送出版協会)、『恋愛心理の秘密』(91年、大和書房)、『管理職が読む心理学』(同年、日本経済新聞社)、『人づきあいに効く「クスリ」』(94年、PHP研究所)、『自分を高める心理学』(同年、太陽企画出版)、訳書に『混みあいの心理学』(インセル他著、87年、創元社)等がある。

1995年5月号掲載


男子トイレでの実験で生理的影響も証明

──確かに、現代は多くの人間が都市に住み、家、乗り物、道路、オフィスといった狭い空間の連続の中で生活していますから、大昔の人たちのパーソナル・スペースとは比べようもないですが、あまり狭いスペースの中ばかりに身を置いていると、人間はどこか変になりませんか。

渋谷 確かに、そういう状況の中ではストレスがかなり高くなりますね。

そして実は、パーソナル・スペースを侵されますと、心理的不快感だけではなくて、生理的にも変化が起こるということが実験で証明されていまして、例えば満員電車内等ではアドレナリン、すなわち興奮剤の分泌が多くなるんです。

──なるほど。満員電車とか人込みの中に長時間いると、イライラしたり、ちょっとしたことでムカッと来たりするのは、パーソナル・スペースを侵されたことが原因なんですね。

渋谷 また、特に男性には分かりやすいと思うんですが、トイレで隣に誰かがいるとおしっこがなかなか出てこないということがありますね。

──別にのぞかれているわけでもないのに、なんか落ち着かないですね。

渋谷 3つの便器が並んでいる男子トイレで、ジッパーを開けてから排尿までの時間、および排尿の所要時間を実験した例があるんですが、一人だけでいる場合と、二人の人が両端の便器を利用した場合にはほとんど差がないんです。ところが、隣合せで便器を利用した場合、被験者の排尿開始までの時間は長くなり、排尿そのものにかかる時間は短くなるという結果が出ています。これは、排尿する人のパーソナル・スペースに他人が侵入しているからだと解釈されています。他人がそばにいるという意識が、排尿行為に影響してくるというわけです。

──心理的な不快感が生理的にも影響を及ぼしているというわけですね。

ストレスから病気になるというのをよく聞きますが、パーソナル・スペースの欠如によって病気になる例もあるんですか。

渋谷 もちろんあります。分かりやすい例では、囚人がそうなんです。彼らは強制的に狭い空間に押し込められていますね。そうすると、調子が悪い、頭が痛いと訴える人が多いようです。高血圧、心臓疾患、心身症といった病気になる人もいます。


近況報告

その後、山梨医科大学教授に就任。

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