こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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冬眠研究の行く先には、 「不老長寿」をかなえるという 夢があります。

動物の冬眠と長寿の関連性

玉川大学学術研究所特別研究員・薬学博士

近藤 宣昭 氏

こんどう のりあき

近藤 宣昭

1950年愛媛県生まれ。73年徳島大学薬学部卒業、78年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、薬学博士。三菱化成(後・三菱化学)生命科学研究所主任研究員、(財)神奈川科学技術アカデミーを経て、現在に至る。大学院修了後、心臓の低温保存研究に興味を持ち、冬眠動物の心臓の低温耐性機能を電気生理学的、薬理学的に研究。この間に、冬眠を制御する生理機能の重要性に気付き、現在、その仕組みの解明を目指している。著書は、『冬眠する哺乳類』(共著、東京大学出版会)、『冬眠の謎を解く』(岩波新書、第27回講談社科学出版賞を受賞)など。

2013年1月号掲載


近藤 ええ。しかし、意気揚々と実験を始めたものの、冬眠できる環境を作るのに苦労しました。それでも、ある時からコツを覚えて、成功しましたが。

「冬眠特異的タンパク質」を発見! これが長生きの秘薬?

 ──同じ環境の中でも、「冬眠するシマリス」と「冬眠しないシマリス」がいるそうですね。

近藤 そのことが、冬眠のメカニズムを解く『驚きの発見』につながったんです。10匹に1匹くらいの割合で冬眠しないシマリスがいたのですが、これらは冬眠するシマリスに比べて短命なんです。
どうして同じ種で違いがあるのだろうと疑問に思い、冬眠するシマリスの血液を調べてみました。すると、血液の中に他の動物にはない特殊な4種類のタンパク質で構成された複合体があり、冬眠する前にこのタンパク質が異常に減少することに気付いたんです。これが冬眠誘発物質なのだろうか・・・。それを確かめるために、冬眠しないシマリスを調べたところ、そのタンパク質の減少は見られず、常に一定だったのです。
これは、冬眠のための特異的なタンパク質なのかもしれない・・・ということで、これらを「冬眠特異的タンパク質(Hibernation-specific protein 略してHP)」と名付けました。

──でも、冬眠に必要ということであれば、逆に増えるのでは?

近藤 そのように考えるのが普通ですよね。でも、別のところでちゃんと増えていました。血液中で減少したHPは脳内に運ばれ、活性化されて増加していたんです。

──つまり、その仕組みが「冬眠に入れ」というシグナルだと?

10畳ほどの低温室に設置した、体表面温度自動計測システムの一部。近藤氏のアイデアで特注した機器で、世界に1つしかないという〈写真提供:近藤宣昭氏〉

近藤 はい。私はHP複合体の増減こそ、冬眠のメカニズムだと考えています。
さらに、冬眠できない環境の23℃でシマリスを飼育してみたところ、一部早死にしてしまったシマリスもありましたが、ほとんどが冬眠するシマリスと同じ寿命を維持していたんです。そして調べてみたところ、長生きしたシマリスにはHPの増減が起こっていて、早死にしたシマリスには起こっていませんでした。つまり、長寿の秘訣は冬眠することではなく「HPの増減」だと考えられるのです。

──それはすごい! 先生が発見したHPは、「長生きの秘薬」になるかもしれないというわけですね。


近著紹介
『冬眠の謎を解く』(岩波新書)
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