こだわりアカデミー
大人が子供達のためにしてやれることは 何かを考え直すべき時が 今ではないかという気がしますね。
「子ども相談室」と現代の子どもたち
国際学院埼玉短期大学幼児教育科教授 「全国子ども電話相談室」回答者
杉浦 宏 氏
すぎうら ひろし
1930年東京生れ。日本大学農学部水産学科卒業後、上野動物園水族館、井の頭水生文化園、上野動物園飼育課を経て現在、国際学院埼玉短期大学教授、日本大学国際関係学部講師。江の島水族館の特別顧問も務める。専攻は魚類学、生態・環境学。またTBSラジオで放送されている「全国子ども電話相談室」の回答者を務めるなど多方面で活躍中。子供の視点に立ったあたたかく優しい口調の解説で「おさかな博士」として親しまれている。著書に『水族館は海への扉』(89年、岩波ジュニア新書)、『わが子に語る動物の不思議な話』(91年、フォー・ユー)、『海辺の探検』(93年、童心社)、『動物たちの死をみつめて』(93年、弘文堂−写真)ほか多数。
1994年10月号掲載
周りのものに目を向ける「気付くこと」の重要性
──先生がお書きになられた「動物たちの死をみつめて」を拝読しましたが、副題に"死から生きることを考える"とありますね。
杉浦 今僕達は、子供たちに何を伝え、何を気付かせてやらなければならないかということの一つとして、生あるものは死ぬんだよ、でも、「死」ということをしっかり見つめてやらなかったら生きる喜びはないだろう、というところに結び付けているわけです。
だから、動物を飼ったらいけない、とか昆虫採集は生物虐待とか言わず、やってもいいんです。例えば、トンボをつかまえて羽根をちょんぎって飛ばしてもいい。
「そんなことをしたらかわいそうだ」とか言っても、子供には、何故かわいそうなのか理解できませんよ。
でも、短くなった羽根で一生懸命飛んでいるのを見た時、「あ、かわいそうだ、悪いことをしたな」と思えば次の日からやらなくなるもんです。
──知識ではなく感動なんですね。
その感動がいい体験となって、人間的にも成長していく。
杉浦 その通りですよ。
僕は今短大のほかに、三島にある日大の国際関係学部でも生物学の講義を行っているんです。
新幹線の三島駅から大学まで10分くらい歩いていくんですが、そうすると、あるところでは道端に地元の老人クラブの人達が花を植えていたり、ある家ではたくさんの花をワーッと鉢植えにしてあったりする。学校に着くまで50種類くらいの花が咲いていた時もあったんです。これは僕にとっては感動ですからね。講義の時にそのことを話したら、次の週に一人の学生が、こういうことを言うんです。
家に帰ってテレビのニュースを見ていたら、お母さんが花の映っている画面を見て「きれいな花ね」と一言漏らしたのを聞いてアッと思った。先生は50種類の花を見たって一人で喜んでた。お母さんはニュースの中身より花を見て「きれい」と言った。「見なきゃいけない、気付くことだ」と大学生になって始めて分かったって。
──その子は幸せでしたね。花に関する事柄が、偶然2つ重なって、周りに目を向ける大切さに気が付いて。
杉浦 こんなこともありました。短大の運動会の朝、グラウンドに行ったら、カッコウがきれいな声で鳴いていたんです。で次の日「昨日カッコウの声を聴いた人いるか」と学生達に尋ねたら、「エッ、カッコウが鳴いてたんですか」なんて言うんです。結局一割くらいの学生しか聴いていない。
──それは一体どういうわけなんでしょう。
杉浦 結局耳に入ってこないんですよ。
子供のために子供のために、といって、大人達は本当に何をやってきたのだろうと考えると、今の小学校、中学校、高校は受験のための教育だから記憶重視の押込み型でしょう。
周りのものに目が向かない、気付かない人間になってしまうんですね。
大人が子供にしてやれることは何なのか、ということをもう1回問いただし、考え直していかなければならないのが、今ではないかという気がしますね。
──いろいろな体験を持っているわれわれの世代が、次の世代に伝えておかなければいけないことがまだまだたくさんあるような気がします。今日はいいお話をありがとうございました。
2000年3月、母校である日本大学より「国際的視野からみた水族館の役割−特に技術的進歩について−」の論文に対して博士(国際関係)Ph.Dを受けられたとのこと。
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