こだわりアカデミー
怪談や心霊現象の大半は 過労や夜ふかし・朝寝型の不規則な生活が原因ですね。
怪談・心霊現象を解明する
明治大学法学部心理学講師 川崎市麻生保健所所長
中村 希明 氏
なかむら まれあき
1932年福岡県生れ。慶応義塾大学大学院医学研究科を卒業。専攻は精神医学。国立久里浜病院、川崎市立精神保健センター所長を経て、現在明治大学法学部心理学講師、川崎市麻生保健所所長、川崎市立井田病院精神科部長を務める。またアルコール症治療専門医として知られている。医学博士。著書に、中村氏が収集した怪談の事例をもとに人間の心を分析した『怪談の科学―幽霊はなぜ現れる』(88年、講談社)、『怪談の科学PART2』(89年、講談社)、『アルコール症・治療読本』(82年、星和書店)他多数。最新著書に『酒飲みの心理学―楽しい酒、上手な酒の飲み方』(1992年、講談社)がある。
1992年11月号掲載
「金縛り」は入眠直後のレム期に起こる
──「心理学」とひと口に言っても非常に範囲が広いと思います。先生のご専門はどういう分野ですか。
中村 おっしゃる通り、心理学というのは、神経生理といわれる分野から精神分析の分野まで幅の広い学問です。私はもともと、脳波を記録する神経生理の方から入りまして、テンカンの診療などを行なっていました。その後180度転向して精神分析を学ぶようになりました。
──「神経生理」というのは自然科学的な分野で、心理学の中でもハードの部分と言えますね。
中村 そうですね。若い学生さんなんかは「心理学」というと人文科学の精神分析などをイメージしているようで、実際に科目をとってみてがっかりする。千葉大学の望月衛教授は皮肉混じりに「心理学という学問は知らない前には親しみを、知ってからは当惑を与える学問である」と言っていますが、まさに複雑・広範な学問であるわけです。
──ところで先生は、神経生理学的な見方から怪談や心霊現象等がある程度解明できる、証明できるとおっしゃっていますね。
中村 ええ。かなりのものが神経生理学的に説明できるようになってきています。
──今日はその辺のお話をお聞きしたいと思います。例えば「金縛りにあった」とよく聞きますが・・・。
中村 旅行なんかに行ってなかなか眠れない、うなされる、身体を動かそうとしても動けない、叫ぼうとしても声が出ない、というような状態のことですね。これはもうかなり細かくはっきり分ってきています。
──分りやすく説明していただけますか。
中村 まず、人間には睡眠のリズムを調整している「体内時計」というものがありまして、たとえ真っ暗なトンネルの中で生活していても、夜になればだいたい決った時間に眠気が来て朝方には覚醒するようになっています。つまり睡眠は、この体内時計の内部リズムと、昼夜の明暗がつくる外部リズムとの調整によって正確に維持されているわけです。
「レム期」という言葉をお聞きになったことがあると思いますが、正常な状態での睡眠では、入眠してから90分以後にレム期が現れ、ノンレム期とレム期を何度か繰り返すわけです。また、明け方になるにつれレム期の持続時間は長くなります。
──「レム期」というのは、どういう状態を言うんでしょう。
中村 レム(REM)というのは「Rapid Eye Movement」の頭文字をとった言葉です。レム期には、言葉の通り「急激な眼球運動」が起こり、同時に筋緊張が落ち、心臓の鼓動が高まり、呼吸曲線が乱れるなどの複雑な自律神経系の変化が起こるんです。夢はこのレム期に見ているということが実験等で明確になっています。
普通、このレム期というのは、入眠して90分以上たたないと来ない、つまり寝入りばなには来ません。しかし、海外旅行や出張などで時差があったり、夜ふかし・朝寝型の生活をしていたり、また寝苦しい夏など、レムの出現しやすい朝方に就寝すると、いきなりレムが現れることがあります。これをS・O・REM(スリープ・オンセット・レム=入眠直後に現れるレム期)と言いまして、先ほど申しましたように、筋緊張は極端に落ちてコントロールはきかないのですが、意識の方はまだ完全に寝入ってませんから「金縛り」の状態になるわけです。
※中村希明先生はご永眠されました。生前のご厚意に感謝するとともに、慎んでご冥福をお祈り申し上げます(編集部)
サイト内検索