こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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「方言コスプレ」とは、方言を用いた 『ことばのコスチューム・プレー』のことです。

現代社会のコミュニケーションツール「方言コスプレ」

日本大学文理学部国文学科教授

田中 ゆかり 氏

たなか ゆかり

田中 ゆかり

1964年神奈川県生まれ。87年早稲田大学第一文学部日本文学専修卒業後、約3年間、読売新聞社に記者職として勤務。96年早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)。早稲田大学文学部助手、日本学術振興会特別研究員(PD)、静岡県立大学国際関係学部専任講師などを経て、2006年から現職。専門は、日本語学(方言・社会言語学)。現代日本語社会で生ずるさまざまな「ことば」に関わる現象を足場として、社会や都市の成り立ち・行く末、そこで暮らす人々の意義や実態を捉えることができれば、と考えている。著書は、『「方言コスプレ」の時代―ニセ関西弁から龍馬語まで』(岩波書店、2011)、『首都圏における言語動態の研究』(笠間書院、2010)など。

2012年9月号掲載


田中 昔から「上方VS江戸」という構図があり、東京人は関西弁を、関西人は東京弁を敬遠していました。当時も、首都圏に住む50〜60歳代の人は関西弁を受け入れなかったのですが、何と40歳代を分水嶺に、30歳代、20歳代と若くなるにつれて、受け入れる人が増えていたんです。

 

──なぜ40歳代が分かれ目に?

田中 当時の40歳代といえば、1980年代の漫才ブームの洗礼を受けた世代なんですね。つまり、首都圏の若い世代にとって関西弁とは、テレビで盛んに流れている「よしもと弁」で、流行りの一種「サムシングニュー(何か新しいもの)」として受け入れられたわけです。

──面白いですね。普通、方言というと、人から人へ地理的に隣接した地域に広がっていくものですが、関西弁はテレビの影響で一気に広まったと。それで、関西弁に対するイメージが「楽しい」とか「面白い」に変わったということですね。

田中 そうなんです。例えば、自分を面白く見せたいときや、相手の冗談につっこむときなどにわざと関西弁を使うのは、そうしたイメージが定着してきたからなんです。

 

「方言コスプレ」は、ポジティブなコミュニケーションツール

田中 1970年代頃までは、標準語政策の影響で、「方言」は「好ましくないもの」「恥ずかしいもの」と位置付けられており、「方言コンプレックス」を生んだ時期もありました。ところが、90年代中頃から2000年代前半に、各地の伝統的な方言を『文化財』として保存する動きが出てきて、テレビドラマなどでも主人公が土地の方言を使うようになってきました。それがきっかけで、方言は「味がある」「価値がある」といったイメージに変わっていったと思われます。

──そういえば、主人公が土佐弁を話す「龍馬伝」は大変なブームでしたね。

 


近著紹介
『「方言コスプレ」の時代―ニセ関西弁から龍馬語まで』(岩波書店)
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