こだわりアカデミー
モンゴル帝国は、民族や人種、言語、宗教などを超越した 国家だったのです。
モンゴル帝国の盛衰−世界を変えた遊牧民
歴史学者 京都大学大学院研究科教授
杉山 正明 氏
すぎやま まさあき
1952年静岡県生れ。74年京都大学文学部史学科卒業。79年同大学大学院文学研究科東洋史学専攻博士課程修了後、京都女子大学文学部東洋史学科専任講師、助教授、92年京都大学文学部史学科助教授を経て、95年現職に。92年に放送されたNHKの番組『大モンゴル』の監修を行う。著書に、『大モンゴルの世界』(92年、角川書店)、『クビライの挑戦』(95年、朝日新聞社)、『モンゴル帝国の興亡(上・下)』(96年、講談社)、『耶律楚材とその時代』(96年、白帝社)、『遊牧民から見た世界史』(97年、日本経済新聞社)など。
1998年9月号掲載
今も昔も軍事力が大国を支える
──モンゴル帝国を支えたのは、まさにその経済力だったんですね。
杉山 結果的には経済ですが、実は軍事力があったからこそなんです。
モンゴル帝国は、本当にとてつもない広さで、それだけの富を持っていた国ですから、手に入れたいと思っていた国がいても不思議ではありません。弱ければあっという間に、他の国に吸収されてしまったでしょうし、あるいは内側から、どこかの集団が独立しようとしたかもしれません。強大な軍事力があったからこそ、刃向かう者もなく、分裂もせず、長期にわたり安定的に続くことができました。そのおかげで、通商の安全も保障され、経済も発展し得たのです。
──しかし、それだけの強い軍事力を持ったモンゴル帝国が、滅亡したのはなぜですか。
杉山 一番の理由は、クビライの死後、巨大な帝国を治めるだけの器を持った人がいなかったからです。これにより中央政局内で暗殺が起き、内戦が勃発し、軍事力が弱まりました。ちょうど同時期に、黄河の大氾濫のため近くにあった塩の大生産地を失いました。そしてこの氾濫を防ぐために召集した農民たちが反抗し、反乱軍となってしまったのです。もはや帝国には、それを抑えるだけの軍事力もなく、耐えきれなくなった帝国は、1388年にとうとう滅亡してしまいました。
──ところで現代は、世界経済にかなりの影響力を持つアメリカが、「帝国」的な存在になっています。世界を制すのは経済のように思いますが…。
杉山 いいえ、やっぱり今も変わらず軍事力ありきです。誰が見てもアメリカの軍事力は、世界最強です。彼らは、その軍事力をちらつかせ、他国に物言わせないところがありますからね。
また、モンゴル帝国は陸、海を制しましたが、アメリカは空をも制しています。さらに、文化のような見えないところまで支配していることを考えると、もはや「モンゴル帝国が人類史上最大の世界帝国だ」、とはいえなくなってしまいました。
ただ、モンゴル帝国の良いところは、人種的な問題を抱えているアメリカとは違い、民族とか人種、言語、宗教などを超越していた国家ということですね。
──今、世界を見回すと、そうしたものに振り回され、憎み合い、戦うことを余儀なくされている人々がたくさんいます。特定の理念とかイデオロギーを押しつけないモンゴル帝国は、人間社会としては、ある意味、進んでいたといえるかもしれません。私たち現代人にも、たくさん見習うべき点がありますね。
本日はありがとうございました。
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