こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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絵師の意図を探っていく…。 ここに絵巻のおもしろさがあります。

絵巻で中世が見えてくる

歴史学者 東京大学文学部教授

五味 文彦 氏

ごみ ふみひこ

五味 文彦

1946年山梨県生れ。68年東京大学文学部国史学科卒業。70年同大学大学院修士過程修了。お茶の水女子大学助教授を経て、東京大学文学部助教授、のちに現職へ。文学博士。専攻分野は日本中世史。絵画を含むさまざまな史料を多面的な分析をし、中世社会の様子や文化の再現に精力的に研究を進めている。91年には著書『中世のことばと絵』でサントリー学芸賞(芸術・文学部門)、中村星湖文学賞を受賞。著書に『院政期社会の研究』(84年、山川出版社)、『平家物語、史と説話』(87年、平凡社)、『吾妻鏡の方法』(90年、吉川弘文館)、『中世のことばと絵』(90年、中央公論社)、『武士と文士の中世史』(92年、東京大学出版会)、『絵巻で読む中世』(94年、筑摩書房)、『徒然草の歴史学』(97年、朝日新聞社)他多数。

1997年9月号掲載


「巻いている」ということが「時間の流れ」を表している

──今日は中世の絵巻についてお話をお伺いしたいと思いますが、今、日本の中世史の研究では絵巻だけに限らず絵画資料がよく使われているそうですね。

五味 ええ。文章の方は難しくてなかなか理解できなくても、絵などの場合はビジュアルに表現されていますから、当時の風俗や文化などが素人でも分かりやすいんですね。

ですが、この「視覚」からモノを見るというやり方は、現代のわれわれの感覚で理解してしまいがちになるので、ある意味、危険でもあるんですよ。

──時代を飛び越えた解釈になってしまうということですか。

五味 そういうことです。例えば中世に描かれた絵巻物にしても、われわれ現代人の見方と、その同時代に生きた人達の見方とでは全く違うかもしれないということがあります。絵は直観で見てしまいがちになり、見た人の思い込みが入ってしまうので、間違った解釈をしてしまう恐れがあります。

その点絵巻物の場合は、文章がついているので、どんな内容なのかを解釈できます。

──なるほど。複眼的に見ることもできる訳ですから、中世の様子を知る上でも大事な史料ですよね。

ところで、先生が研究されている「絵巻」なんですが、小・中学校の教科書とかにも絵の一部が掲載されたりしていますが、「何年に何という人が描いたもの」というくらいしか書かれていない。ですから内容まで教わることがほとんどないんじゃないかと思うんです。例えば、『鳥獣人物戯画』は有名ですが、どんな内容で、またどんな目的で描かれたのかまでは知らない人が多いと思うんですよ。

そもそも「絵巻」は一体どういうもので、何のために描かれたんでしょう。

五味 絵巻は絵画を言葉と絵という形で交互にセッティングすることで、何らかのストーリーを描いているのです。

ただ、今の漫画とかとちょっと違うのは、絵と文章が連続して巻物になっている。この「巻いている」ということが「時間の流れ」という効果的に表しているわけです。開いたり巻いたりすることで、ストーリーに連続性が出てくる。映画と同じですね。

また絵巻の中には「異時同図」といって、異なった時間の描写が一つの絵巻に描かれているものもあるんですよ。

──日本以外、例えば中国にも絵巻はあるのでしょうか。

五味 多少そういう性格のものはありますが、日本独自で発展してきたものです。

──日本の絵巻の起源はいつ頃何でしょう。

五味 源氏物語の中にも『絵合わせの巻』のように絵巻を見ているような描写がありますから、平安中期には既にあったと考えられます。特に院政時代から鎌倉時代のものが現在でも多く残っていますね。中でも院政時代のものには『源氏物語絵巻』『伴大納言絵巻(ばんだいなごんえまき)』『信貴山縁起(しぎさんえんぎ)』『鳥獣人物戯画』など、国宝の四大絵巻が有名です。これらは主に地位の高い人達の一つのコレクションなんです。自分のやったパレードをお抱えの絵師に描かせたりして、それを臣下の者に見せて楽しむ、という権威づけの材料でもあったんですよ。

──では初めは、庶民が見るというものではなくて、貴族などのごく少数のトップクラスの人達が見るためのものだったんですね。


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