こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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欧米などの先進国では、 ほとんどが自転車利用を優遇することを国策としています。

自転車の利用促進で、日本の明るい未来をつくる

博士(工学) 麗澤大学客員教授・京都大学大学院講師

古倉 宗治 氏

こくら むねはる

古倉 宗治

1950年大阪府生まれ。74年東京大学法学部公法学コース卒業。建設省(住宅局、都市局、官房、近畿地方建設局、道路局および建設経済)、国土庁(土地局)ならびに総務庁勤務。この間、89年東京工業大学工学部助教授(都市計画)、92年(財)民間都市開発推進機構都市研究センターに出向、その後2003〜08年(財)土地総合研究所理事兼調査部長等を経て、現在に至る。05年東京大学大学院工学系研究科博士(工学)取得。自転車の総合的体系的な利用促進策、放置問題の新たな発想による解決策等を手掛けるほか、まちづくりに関する法制的な規制、都市環境における環境共生のあり方等の調査研究を行っている。著書は、『欧米先進国にみる自転車政策の高度な取組み』(サイカパーキング)、『成功する自転車まちづくり−政策と計画のポイント』(学芸出版社、日本不動産ジャーナリスト会議賞著作賞、日本環境共生学会著述賞を受賞)など。

2012年11月号掲載


──それは意外です。車道を走行した方が安全だとは。
そうなると、今まで以上に交通ルールを守って、自転車は車道を走行しないといけませんね。

アメリカ・コロラド州ボルダー市にある不動産会社「Pedal to Properties(ペダル・トゥ・プロパティーズ)」の店頭。物件案内を自転車で行うなど、自転車は仕事や生活にも密着している

 

先進国を見習い、「自転車の位置付け」を明確に

──そういえばつい先日、アメリカ・シカゴ市在住の当社の通信員から「シカゴ市長が、市内に自転車専用レーンを増加し、全米ナンバーワンの自転車優先都市になると宣言した」と聞きました。海外では、自転車政策が活発に行われているようですね。

古倉 そうなんです。先進国のほとんどで、自転車の利用を優遇する政策が、「国策」として進められています。

──知りませんでした。なぜ、国を挙げて取り組んでいるのでしょう。

古倉 例えば、アメリカでは2010年代、自転車利用促進に800億円以上の連邦予算を使っています。それは、深刻な「貿易赤字」と「財政赤字」を解消するためです。貿易赤字の大きな原因の一つは、石油の大量輸入。そして、財政赤字は、運動不足が原因の「生活習慣病」を治すために掛かる医療費の増大です。これら二つの問題を解決する方法の一つとして、石油の消費量を抑え、健康を増進するという大きなテーマのもと、政策が進められているのです。

──日本でも、国策として取り組むべきですね。

古倉 おっしゃる通りです。アメリカ以外でも、例えば、デンマークのコペンハーゲンやオランダのアムステルダムは、自転車を車より優先させる交通手段として位置付けていますし、ロンドンは自転車を唯一最重要な交通手段と宣言して、車および公共交通よりも優先しています。
一方、日本の場合は、残念ながら「自転車を優遇する」という考えが浸透していない。自転車の利用が国益につながるという「哲学」がないのです。専用レーンや駐輪施設の確保が必要とか、放置自転車をどうするかといった「各論」ばかりを検討するのではなく、まずは自転車に優先的な「位置付け」を与えることから始めなくてはなりません。

──なるほど。日本の自転車政策が先進国に遅れを取っているのは、自転車の位置付けが明確でないからなんですね。

 

自転車利用者に「インセンティブ」を

──これまでのお話で、自転車がこれからの交通手段の主役になるべきだということがよく分かりました。では、先生がお考えになっている、自転車利用促進のための妙案は何かありますか?


近著紹介
『成功する自転車まちづくり−政策と計画のポイント』(学芸出版社)
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