こだわりアカデミー
創造に失敗はつきもの!その失敗を分析することで 成功への道が開けてくるのです。
失敗を生かす「失敗学」
工学院大学国際基礎工学科教授
畑村 洋太郎 氏
はたむら ようたろう
1941年、東京都生れ。東京大学工学部機械工学科修士課程修了後、日立製作所でブルドーザーの開発設計に従事。その後、73年、東京大学工学部助教授、83年、同大学大学院工学系研究科教授に就任。01年より現職。また、同年より畑村創造工学研究所を主宰。東京大学名誉教授。著書に『失敗学のすすめ』(2000年、講談社)、『社長のための失敗学』(02年、日本実業出版社)、『決定版 失敗学の法則』(02年、文芸春秋)、『成功にはわけがある』(02年、朝日新聞社)、編著に『続々・実際の設計--失敗に学ぶ』(96年、日刊工業新聞社)、『子どものための失敗学』(01年、講談社)など多数。
2002年11月号掲載
日本のロケット開発技術も失敗がもたらした産物!?
──先生のご著書で多くの失敗事例を読ませていただき、いわゆる「ドジ」ともいうべきやや滑稽な失敗から、犯罪ともいえるような失敗、また、その後の技術進歩につながるような「意義有る」失敗まで、その範囲が随分広いことを改めて実感いたしました。
畑村 しかし、いずれの失敗も分析してみると、「未知」「無知」「不注意」「手順の不遵守」「誤判断」「調査・検討の不足」「制約条件の変化」「企画不良」「価値観の不良」「組織運営の不良」の10種に原因を分類することができます。どんな失敗でも、これらいくつかが重なったために起こるものなのです。
これだけ分っているのですから、失敗を生かさない手はないでしょう? ですから、単に失敗してしまったという結果を責めるだけではなく、次の事故防止、新たな進歩への大事な教材と捉え、生かしていくべきなのです。
──なるほど。失敗そのものを探求し、そこから学ぶことが大事なわけですね。
畑村 その通りです。
例えば、1999年のH-2ロケット8号機が打上げ後に、最後の制御の不具合で小笠原海域へ墜落してしまったニュースは記憶に新しいでしょう。これなどは失敗を無駄にせず、後の技術進歩につなげた良い例です。
──もちろん覚えています。確か、メインエンジンを広い海域の、それも3,000メートルの深さのところから引き上げたと聞いています。奇跡に等しい出来事だったんですよね?
畑村 私もあの時は、よくぞ探し出した! と興奮したものです。
というのも、これを単に不調だったためと締めくくっていたら、先日のH-2Aロケット打上げ成功も随分先のことになったといっても過言ではありません。失敗の原因となったメインエンジンを必死で探し出し、なぜ失敗を招いたのか徹底的に調査、分析したことでさまざまなことが解明できました。いうなれば、失敗を教材として生かしたことが今日のH-2Aロケット成功を導いたのです。
──まさしく「失敗は成功のもと」を実践、証明したわけですね。
しかし当時は、そんなマスコミ報道はありませんでしたね。むしろ失敗してしまった事実だけを大々的に取り上げていたような…。
畑村 残念ながらそうでした。ロケット開発などまだまだ未知の分野なのに、日本人はどうしても失敗をプラスに考えることが苦手なようで…。
──その後に至っても、ちょっと不具合が公になったりすると、「日本の技術もここまでか!」なんて叩かれてしまったり…。
一方でアメリカでは、チャレンジャーの打上げ失敗が、後の技術開発につながる大変有意義なものだと認識されているそうですね。
畑村 失敗への認識が全然違うんです。
日本という国自体、古くは中国、近年は欧米の真似をすることで発展してきたこともあって、自ら創意工夫する能力より、正解を探す能力の高さを評価してきたところが多分にあります。失敗を恐れ、マイナスに捉えがちなのも、そうした背景も影響しているのだと思います。
──これが文化の違いというものなんですね。また、日本は「恥」という意識を重んじる傾向が強い、というあたりも影響しているのでしょうか?
(左上)海底に沈むH-2ロケット8号機のメインエンジンLE−7エンジン |
『社長のための失敗学』(日本実業出版社) |
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