こだわりアカデミー
サンゴは謎の生物。 いろいろな可能性を持った未来資源かもしれません。
サンゴの「増殖」をめざして
東京水産大学水産学部教授
大森 信 氏
おおもり まこと
1937年大阪府生れ。60年、北海道大学水産学部卒業後、米国ウッズホール海洋研究所およびワシントン大学大学院留学。63年に東京大学海洋研究所助手、76年にカリフォルニア大学スクリップス海洋研究所客員準教授、78年ユネスコ自然科学局企画専門官を経て、現在、東京水産大学教授に。日本プランクトン学会会長、日本海洋学会評議員なども務める。水産学博士。
1999年6月号掲載
サンゴの保護につながる新しい発見を間もなく発表!
── では、サンゴの絶滅をくい止めるには、人間の活動を抑えることが一番有効だということですか。
阿嘉島臨海研究所では、年に200回以上潜ってサンゴの観察や調査を行なう |
大森 そうなりますね。しかし、それには限界があるので、逆に人間の手でサンゴを増やす方法を、サンゴ礁が見られる沖縄の『阿嘉島臨海研究所』で研究しています。この研究所は、一九八九年に熱帯海洋生態研究振興財団が、ケラマ列島の阿嘉島に設立したもので、私も理事として研究活動を手伝っています。
── サンゴを増やす研究とは、具体的にどのようなことですか。
大森 一つに、クローンで増えるという性質を利用した研究があります。実際に、嵐などでバラバラになったサンゴの一部が、別の場所で再生していることから、健康なサンゴを折って挿し木のように移植をするというわけです。しかし、この方法で広いサンゴ礁を修復するのは、難しいようです。費用が、1ヘクタール当り50万円以上もかかり、その上移植したものは根元が弱いためか、移植してから4年後の生存率は5.4−13.2%という低い値が報告されています。
── それでは割に合いませんね。
サンゴは年に1回、満月の夜に一斉に産卵する |
大森 ですからこの方法以外に、有性生殖を利用して増やす方法も研究しています。ほとんどのサンゴは一年に一回、一斉に産卵をします(左の写真を参照)。水中で受精した後、プラヌラと呼ばれる幼生になり、5−7日間海上を漂流した後、海底に着生するわけです。もちろん、その間に魚に食べられたり、海岸に打ち寄せられたりして死んでしまうものもたくさんいて、実際に育つ数はほんのわずかですが…。
── その幼生を育成に適した場所へ持っていって、放せば良いわけですね。
大森 基本的にはそうなんですが、そのままではまた水に流されてしまう危険性があります。実際、幼生は自然界にある何かが「着生しろ」という命令信号となり、それに反応して着生し出すのです。ですから、幼生にその信号を送って、着生し、ポリプに変態するようにして放てばいいわけです。信号の元がどういうものであるか、どういう物質が含まれているのかについてはある程度突き止めており、もうすぐ学会で発表できるだろうと思っています。
── これが成功すれば、サンゴも危機を免れられそうですね。
大森 そうなってくれることを願っています。ただ私達研究者だけでなく、もっとたくさんの人達に、サンゴの危険な現状を知ってもらい、その重要性・必要性を理解してもらうことが大切です。それが真の意味での保護につながると思うんです。ですから、今、阿嘉島研究所では現地の小中学生を対象に「マリン教室」を開催し、サンゴを中心に海の世界について楽しく学習してもらう機会をつくっています。
── 確かに、私達日本人は海に囲まれ、海からの恵みをたくさんもらって生活していますが、サンゴのこと以前に海のことすらよく知りません。もっとサンゴなど海の生物や海そのものについて、私達も勉強しなくてはいけませんね。
本日は、貴重なお話ありがとうございました。
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