こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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コオロギにも気分が? 行動をコントロールするホルモンは人間と一緒なんです。

コオロギで探る人間の心

金沢工業大学教授

長尾 隆司 氏

ながお たかし

長尾 隆司

ながお たかし 1951年、香川県生れ。75年、大阪大学基礎工学部生物工学科卒業。77年北海道大学理学部動物学教室教務職員、81年同大実験生物センター助手、助教授、94年金沢工業大学人間情報システム研究所助教授兼科学技術振興事業団の独創的個人研究育成事業「さきがけ研究21」研究員を経て、2000年より現職。共著に『昆虫の脳を探る』(共立出版)、『環境昆虫学』(東京大学出版会)、『バイオミメティックスハンドブック』(エヌティーエス)など。

2004年10月号掲載


気性は遺伝か環境か?実験室で誕生した狂暴なコオロギ

──さらに、先生は育った環境によってコオロギの性格が変化するといったご研究もされているそうですが?

長尾 ええ。コオロギにも、私達同様、気性の荒いものもいればおとなしいものもいます。そのような攻撃性は、何で決まっているのかについて調べました。

コオロギを集団と隔離に分けて育て、雄同士を出会わせてみました。集団の雄同士は短時間で終わる穏やかな闘争が多いのに対し、隔離コオロギは激しい攻撃性を長く続けることが分りました。

中でも、卵から透明な飼育ケースで隔離し続けたコオロギは、他のコオロギでは見られない異常な狂暴性を示したのです。

──“狂暴な”コオロギ…ですか?

コオロギの雄同士は出会うと闘争行為を行なう。通常はどちらか一方が逃げたりすると勝敗がついたものとして止むが、隔離飼育されたコオロギは相手を殺すまで攻撃を続けることが多い。一方、集団飼育されたコオロギはあたかも協調性を身に付けたかのように、闘争行為すら避ける場合も(写真提供:長尾隆司氏)
コオロギの雄同士は出会うと闘争行為を行なう。通常はどちらか一方が逃げたりすると勝敗がついたものとして止むが、隔離飼育されたコオロギは相手を殺すまで攻撃を続けることが多い。一方、集団飼育されたコオロギはあたかも協調性を身に付けたかのように、闘争行為すら避ける場合も(写真提供:長尾隆司氏)

長尾 はい。コオロギの闘争は雄同士で行なわれ、基本的には一方が逃げると勝敗が決まり、勝った方もそれ以上の攻撃を行なわないのですが、隔離したコオロギは相手が傷ついても攻撃を止めるどころか、死ぬまで攻撃し続けます。さらに驚いたことに、通常は手を出さない雌に対しても、雄と同様に激しく攻撃をし続けたのです。

──生物として、そういう行動は生存適応という意味で良いとはいえないですよね。リスクが高いですし…。

長尾 そうなんです。そこで、この隔離飼育したコオロギの脳内ホルモンを調べてみると、集団のコオロギとの間に明らかな違いがあったのです。隔離コオロギは、集団に比べてドーパミン、オクトパミン、セロトニンのいずれもが少ないことが分りました。生育環境によって発育や攻撃性が変化することと、脳内ホルモンが深く関わっていることが分ったのです。

研究室で集団飼育されているコオロギ。各成長段階ごとに飼育ケースが分かれている。蓋がなくても飛ばなくなった。<br>上が集団飼育、下が隔離飼育したコオロギ。同じ発達段階でも発育の違いは明らか<写真提供:長尾隆司氏>

(左)研究室で集団飼育されているコオロギ。各成長段階ごとに飼育ケースが分かれている。蓋がなくても飛ばなくなった。
(右)上が集団飼育、下が隔離飼育したコオロギ。同じ発達段階でも発育の違いは明らか<写真提供:長尾隆司氏>

──生まれ育った環境によって、人間の性格が変ったりするのと同じですね。

長尾 その通りです。コオロギも人間同様、行動は本能プログラムが書き込まれた遺伝子と環境との相互作用によって発達するからです。

もともと生物が行動するのは、自分自身が生き延びて、子孫を残すためです。そして、それらの行動の根源となっているのは、「性」とか、怒りや恐怖といった「情動」なのです。これらの動物に共通する基本部分には、脳内ホルモンが密接に関係しているのではないかと考えています。

今後は、長期的だけでなくもっと短期的な環境の影響、例えばエサを食べたとか、交尾をしたといった直前の行動によって攻撃性がどのように変化するかについても、脳内ホルモンに注目しながら調べていきたいと考えています。


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