こだわりアカデミー
コオロギにも気分が? 行動をコントロールするホルモンは人間と一緒なんです。
コオロギで探る人間の心
金沢工業大学教授
長尾 隆司 氏
ながお たかし

ながお たかし 1951年、香川県生れ。75年、大阪大学基礎工学部生物工学科卒業。77年北海道大学理学部動物学教室教務職員、81年同大実験生物センター助手、助教授、94年金沢工業大学人間情報システム研究所助教授兼科学技術振興事業団の独創的個人研究育成事業「さきがけ研究21」研究員を経て、2000年より現職。共著に『昆虫の脳を探る』(共立出版)、『環境昆虫学』(東京大学出版会)、『バイオミメティックスハンドブック』(エヌティーエス)など。
2004年10月号掲載
脳の神経の数はわずか10万。それでいて複雑な行動をする
──具体的にはコオロギで何の研究を始められたんですか?
長尾 動物生理学というのは、動物の感覚や行動がどのような構造と仕組みによって生み出されているかを明らかにする学問です。例えば、ものが見えるとか、歩いたり走ったりといった行動が、筋肉や神経そしてホルモンなどの基本要素によってどのように構成されているかを知るということです。
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長尾隆司氏が開発したホルモン検出・分析機械 |
私達の脳はおよそ1000億個の神経からできているのに対して、コオロギの場合は10万個程度です。神経の情報処理の仕方は、基本的には人間もコオロギも同じで、興奮するかしないか、つまりON│OFFのデジタル信号として処理されています。
当時は、コンピュータよりも構造がシンプルなコオロギの行動の仕組みなど大したことはないと思っていました。ところが、実際にコオロギと付き合ってみると、それがどんなに大変なことかということが分ってきました。
──何が大変なのでしょうか。
長尾 例えば、一匹のコオロギに印を付けて行動の変化をじっくり追跡してみると、彼らが決まり切った行動のプログラムを実行する単純なロボットではないことが分ります。たとえ刺激が同じであっても、反応が一定ではなく絶えず変化するのです。脳の造りは単純でも、コオロギはケンカや性行動などの複雑な行動をそのときの状況に応じて巧みに調節したり切り換えたりしているのです。
どうやって単純な神経で複雑な行動を実現しているのか。私達の気分と同じようなものがコオロギにもあるように見えるので、気分に深く関わっているホルモンに注目することになったのです。そこで脳の中を調べてみようと考えたのです。
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