こだわりアカデミー
大気と海洋の動きから 世界的な気候変動の予測が可能に
エルニーニョ現象の仕組みを解明
国立研究開発法人海洋研究開発機構 JAMSTECアプリケーションラボ特任上席研究員
山形 俊男 氏
やまがた としお
1948年生まれ、栃木県出身。71年東京大学理学部地球物理学科卒業。77年同大学理学博士号取得。79年九州大学応用力学研究所助教授、米プリンストン大学客員研究員を経て、94年東京大学理学部地球惑星物理学科教授。97年より海洋科学技術センター(現・海洋研究開発機構・JAMSTEC)に兼任所属。2009年〜12年東京大学理学系研究科長、理学部長。12年東京大学名誉教授、JAMSTECアプリケーションラボ所長、17年より同特任上席研究員及び京都大学宇宙総合学研究ユニット特任教授。04年米国気象学会スベルドラップ金メダル受賞、05年紫綬褒章受章、15年国際海洋物理科学協会プリンス・アルバート一世メダル受賞。フランス海洋アカデミー外国人会員。
2017年7月号掲載
山形 はい。例えば暖かい海水が大気を過熱するのは局地的な現象でも、その影響は大気の波動によって水平方向にも鉛直方向にも伝わり、最終的には遠く離れた場所にまで伝わるのです。通常、エルニーニョ現象が発生すると、ペルーは多雨、インドネシアは干ばつとなり、日本では、どんよりした冷夏となる…といった具合に。
──かなり広い範囲に影響が及ぶのですね。
山形 範囲が広いだけでなく、時間的にも長く続きます。海は大気と比較して温度が上がりにくい一方、いったん、熱をため込むと放出に時間がかかるからです。
この12年、外れなし。予測技術の礎築く
──先生がエルニーニョ現象の仕組みを解明したことで、気候変動の予測技術の基礎が築かれたそうですね。
山形 はい。エルニーニョ現象自体は20世紀初頭から研究されており、1960年代末には大気と海洋が関わる現象であることが分かってきていたのですが、数理的にはっきり示されてはいませんでした。私は、もともとは海洋の流体力学が専門で、アメリカの大学で研究していた際、それまで別々に研究されていた大気と海洋の運動方程式を結合させれば、相互に影響し合う現象を説明できるのではないかと考えたのです。そして1982年にその方程式を見出すことに成功しました。この原理を用いればエルニーニョ現象などの気候変動が予測できるため、これをきっかけに世界で予測の研究が進んでいったのです。
──素晴らしいご功績ですね。具体的にはどのような手法なのですか?
山形 「大気海洋結合モデル」という気候変動をシミュレートするためのプログラムを開発したのです。そこに、現在の海洋・大気の状態を初期値として組み入れれば、海洋・大気の動きをシミュレートでき、今後の状況が予測できるようになりました。
予測精度をより向上させるためには、海洋の観測データがカギとなる。JAMSTECでは、西太平洋からインド洋にわたる海域に海洋観測ブイ(トライトンブイ)を展開している。後方は海洋地球研究船「みらい」〈写真提供:海洋研究開発機構〉 |
──どれくらい先まで予測できるのですか?
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