こだわりアカデミー
子供の頃に見られなかった「ジャコビニ流星群」。 その謎を解明するために、天文学者になりました
宇宙は予測できない謎に満ちている
国立天文台副台長・教授
渡部 潤一 氏
わたなべ じゅんいち
1960年福島県生まれ。83年東京大学理学部天文学科卒業。88年東京大学にて学位取得(理学博士)、国立天文台・光学赤外線天文学研究系・助手となる。ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」などのプロジェクトに参加した後、94年国立天文台広報普及室長を兼務(2003年まで)。10年国立天文台天文情報センター広報室長、同教授。12年副台長(総務担当)に就任、現在に至る。専門は、流星や彗星等の太陽系内の観測的研究、特に彗星を中心に太陽系構造の進化に迫る。著書は、『面白いほど宇宙がわかる15の言の葉』(小学館101新書)、『ガリレオがひらいた宇宙のとびら』(旬報社)など。
2014年10月号掲載
1,000年に1度の天体衝突に、驚き! 興奮! 感動!
──ついでにお尋ねしたいのですが、そのジャコビニ流星群が現れなかった謎は解けているのですか?
渡部 よくぞ聞いてくださいました!(笑) 実はその謎、6年前に私たちの研究チームが突き止めたのです。
──ほー。それは?
渡部 はい。それにはまず、彗星と流星群についてお話ししなくてはなりません。
彗星は、太陽の周囲を楕円軌道を描いて回る小天体のことで、主に氷や塵でできています。それが太陽の熱で溶けて、ほうき状に尾を引いた形になるのです。
それらの塵の一群が地球のそばを通るとき、大気圏に入ってくることがあります。その際、大気との摩擦で溶けて光るのが流星群と呼ばれるもので、われわれには川のようになって星が降ってくるように見えるのです。
以前は、彗星の軌道は太い1本の川だと思われていたのですが、実は細い川の集合体だということが分かってきました。そして、ジャコビニ流星群が見られなかったのは、たまたま地球が川と川の間をするりと通り抜けてしまったことが原因だとわれわれのチームの研究で分かったのです。
1997年3月5日に撮影した「ヘール・ボップ彗星」(木曾観測所にて)。18ヵ月もの期間にわたって肉眼で見ることができた〈写真提供:国立天文台〉 |
2001年11月19日に出現した「しし座流星群」(海南高原〈和歌山県有田郡〉で撮影)。好天に恵まれ、全国的に1時間当たり数百から数千個もの流星雨を観測することができた〈写真提供:津村光則氏〉 |
──そうなんですか! どちらかの軌道が少しズレていたら、華麗な天体ショーが見られたでしょうにね。
ところで、先生がこれまでに観測された彗星や流星群の中で、特に印象に残っているのは何ですか?
渡部 1994年7月、木星に衝突した「シューメーカー・レヴィ第9彗星」です。何しろ、1,000年に1度と言われるほど稀な現象で、われわれ人類が初めて遭遇した大規模な天体衝突でしたから。彗星の分裂核が最初、木星にぶつかって閃光を放ったときには、それはもう興奮しました。およそ30年にわたる研究生活において、最もインパクトが強く感動的な出来事でした。
──6,500万年前、巨大隕石が地球に衝突し、それが元で恐竜が絶滅した話はよく知られていますが、衝突したのが地球でなくて良かったです(笑)。
『面白いほど宇宙がわかる15の言の葉』(小学館101新書) |
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