こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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一つひとつの星を徹底的に調べる「銀河考古学」で、 宇宙の成り立ちまでもが分るのです。

すばる望遠鏡でのぞく銀河の歴史

国立天文台・総合研究大学院大学教授

有本 信雄 氏

ありもと のぶお

有本 信雄

1951年新潟県生れ。80年東北大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。パリ天文台(仏)、ハイデルベルク大学(独)、ダーラム大学(英)と足掛け10年にわたるヨーロッパでの研究生活を送った後、92年より東京大学大学院理学系研究科助教授を経て、2001年より現職。銀河の形成と進化について、ハワイのすばる望遠鏡を用いて幅広く研究している。また、宇宙における物質とエネルギー循環という視点から、星の進化や銀河の進化を考察。最近では「銀河考古学」と称して、銀河系周辺のさまざまな銀河から星を特定し、それらの星の生成史を調べている。その他、小学生などに対し天文学の普及活動を実施。主な著書に『球状星団』(82年地人書館)、『この宇宙に地球と似た星はあるのだろうか』(02年サンマーク出版)など。

2009年8月号掲載


 

有本 銀河というのはたくさんの星の集まりですから、まずは一つひとつの星を特定することから始まります。銀河には古いものから新しいものまで、さまざまな種類の星が混在していますので、どのような星がどこにあるのかを調べることからスタートします。

化石を掘り出し年代等を特定することで、遺跡全体を研究する「考古学」と、まさに同じ作業なんです。

──何千億ある星を、一つひとつ徹底的に調べ上げていく・・・。ちょっと気が遠くなりそうです。

ところで、さんかく座星雲をすばる望遠鏡でのぞくと、他の銀河の星も一緒に見えてしまいます。どのようにしてさんかく座星雲の星だけを特定しているのですか?

有本 星の明るさと大きさだけ見れば、だいたいの距離は分ります。明るくて大きく見える星は手前にあるな・・・と。距離が分れば、その星がどの銀河に属しているのか判別できます。

さらに「星の色等級図」というものがあって、その分類表を見れば、星の色や明るさから年齢や元素の量までもが分るんですよ。

──なるほど。では、そのように星を分類していくことで、何が読み取れるのでしょう。

有本 ご存じのように星は不変なものではありません。太陽も約50億年後には消滅するといわれているように、一つひとつの星にも一生があります。星は消滅するとガスや塵になり、それがまた新しい星を生む。星の年齢や元素を調べて分類することで、星の誕生や消滅が銀河の中のどの位置でどのように起こったのかが分り、銀河の成長過程が地層のように表れていくのです。

──銀河を構成する星が、それぞれどのような歴史を持っているのか。それを調べるのが「銀河考古学」というわけですね。

有本 さらにいえば、一つひとつの銀河が集まって宇宙になるわけですから、銀河考古学は、宇宙そのものの考古学にもなるんですよ。

4000本ものファイバーを持つ観測装置の開発を検討


──今年の1月には、すばる望遠鏡により撮影されたさんかく座星雲の画像データが公開されたそうですね。

有本 はい。縦6万光年×横9万光年という大きさの画像で、8回に分けて撮影しました。さんかく座星雲について、これだけの広さをこれだけ精密に撮影したものは他にありません。

さらに最近では、この規模を一度に撮影できるカメラが開発されました。また、4000本ものファイバーが、一つひとつの星に当るようにした観測装置の開発も検討中で、この装置を使うと、同時に4000個の星のデータを取得することができます。

一晩に4回撮影すれば、1万6000個もの星のサンプルが入手できることになります。

──それは素晴らしい! しかし4000本ものファイバーが、一つひとつの星をちゃんと撮影できるものでしょうか。


近著紹介
『わかる! 宇宙と生命の不思議』(PHP研究所)
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