こだわりアカデミー
結晶の成長の仕組みを解明することで 医学などさまざまな分野への応用が期待できます。
結晶成長学からのアプローチで解明される不凍タンパク質
北海道大学低温科学研究所助教授
古川 義純 氏
ふるかわ よしのり
1951年、滋賀県生れ。78年北海道大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。同年北海道大学低温科学研究所助手に就任し、90年より現職。主な研究分野は氷物理、結晶成長、生物物理、マイクログラビティ。中谷宇吉郎の弟子のひとり、故・小林禎作教授とともに雪の結晶の研究を行なうなどした。現在は国際宇宙ステーションによる宇宙実験プロジェクトを推進中。共著に『雪と氷の事典』『形の科学百科事典』(ともに朝倉書店)、『雪花譜』(講談社カルチャーブックス)など多数。
2006年12月号掲載
「不凍タンパク質」で氷点下でも凍らない生物
──先生が結晶に関する基礎研究をされていることは分りましたが、具体的にはどういったことに応用されるのでしょうか?
古川 そうですね。例えば北極や南極といった氷点下でも、凍らずに生存している魚や昆虫がいます。通常そのような環境下では、人間は体内の水分が結晶化して凍ってしまい、細胞が破壊されて俗にいう凍傷になりますが、その一方で凍らない生物もいる。つまり、そのような生物は耐凍戦略を持っているわけです。
──"耐凍戦略"…。生物はいかに過酷な環境でも適応しているという、一つの生存戦略例ですね。
古川 はい。主に2通りの耐凍戦略があるといわれていまして、一つは、血液中にアルコールやグリセリン、糖などを精製して、いわば血中に不純物を沢山作ることによって融点を下げる方法。これは、塩分が多く含まれている海水が凍らないのと同じ原理です。
もう一つは血中に非常に特殊なタンパク質を作ることによって、血中の水分が氷結晶に成長するのを止める方法です。血中には氷結晶ができることはできますが、非常に小さな状態のうちにタンパク質が周囲にとりついて、その成長を阻害しているようです。このタンパク質を「不凍タンパク質」と呼んでいます。
──なるほど。氷点下の海にいるタラやヒラメなどが凍らないのもその仕組みですか?
古川 その通りです。
「不凍タンパク質」の研究には、化学、生物などさまざまな分野の研究者が多く関わっていますが、結晶成長の観点から研究しているのは世界でもわれわれのグループくらいしかいません。
──どうしてタンパク質で結晶の成長が止まるのか、それは、結晶成長学からのアプローチがなければ分りませんからね。
古川 その通りです。確かにタンパク質というと、化学や生物、遠くて医学といったイメージがありますが、われわれがその議論に加われば、異なった角度からの指摘が可能になります。
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