こだわりアカデミー
世界中で食べられているジャガイモ。 実はインカ文明など、人類の歴史に多大な影響を及ぼした 食物なのです。
ジャガイモがつくったインカ文明
民族植物学者 国立民族学博物館民族文化研究部教授
山本 紀夫 氏
やまもと のりお
やまもと のりお 1943年、大阪府生れ。70年、京都大学農学部農林生物学科卒業、76年、京都大学大学院博士課程修了。78年、国立民族学博物館助手、82年、助教授を経て現職。主な著書に『インカの末裔たち』(92年、日本放送出版協会)、『ジャガイモとインカ帝国 文明を生んだ植物』(2004年、東京大学出版会)。編著に『木の実の文化誌』(92年、朝日新聞社)、『酒づくりの民族誌』(95年、八坂書房)、『ヒマラヤの環境誌−山岳地域の自然とシェルパの世界』(2000年、同)など多数。
2004年6月号掲載
毒抜き・貯蔵技術が発達
──ところでジャガイモは、植物学的にみると8種になるとか。
山本 そうなんです。しかもそのうち、世界に広まったのはたった1種だけです。
また、2種については、煮ただけでは苦くて食べられないんですよ。
──苦いということは、毒があるということですか?
山本 そうです。ソラニンと呼ばれる毒で、ジャガイモの芽に含まれていることでも知られていますよね。
毒のあるイモは、動物やウイルスなど、他の生物に食べられにくく、寒さにも強いのです。村人達はそうしたイモも、毒抜きをして食べています。
──先住民達は、8種をうまく使い分けることで、リスクヘッジしているのですね。
山本 その通りです。普通のジャガイモは、標高約4,000mまでしか栽培できませんが、毒のあるものはそれ以上でも栽培できます。
──保存方法はどういったものがあるのですか?
山本 ジャガイモを凍らせた後に、乾燥させる方法があります。これを何回か繰り返すうちにブヨブヨになるので、足で踏んで汁を抜き、天日で乾かすと、何年でも保存可能な状態になるのです。
冷凍して乾燥させたジャガイモ『チューニョ』は、何年でも保存が可能(左)。 市場では、白いチューニョや黒いチューニョが売られている(右)<写真提供:山本紀夫氏> |
インカ遺跡の石壁に自生するジャガイモの野生種 <写真提供:山本紀夫氏> |
──貯蔵技術も発達しているのですね。
アンデスのジャガイモのお味はいかがでしょうか?
山本 ポクポクしていて、非常に美味しいですよ。
石臼で挽き、肉やイモと煮込む重湯のような料理があるのですが、寒いときに食べると体が温まって非常に美味しいです。
先程のチチャもそうですが、これらが好きになると、アンデスから離れられないですよ(笑)。
『ジャガイモとインカ帝国 文明を生んだ植物』(2004年、東京大学出版会) |
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