こだわりアカデミー
ピンポイントでがん細胞を攻撃。 効き目が高く、副作用もない。画期的ながん治療を開発
ナノサイズの乗り物で抗がん剤を運ぶ
東京大学大学院工学系研究科教授
片岡 一則 氏
かたおか かずのり

1950年生まれ。1974年東京大学工学部合成化学科卒業、79年同大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了(工学博士)。94年東京理科大学基礎工学部教授、96年フランス・パリ大学客員教授などを経て、98年より東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻教授、2004年同大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター教授(併任)。05年東京大学ナノバイオ・インテグレーション研究拠点リーダー。
2015年12月号掲載
片岡 はい。投薬による治療では、実際に患部まで届く薬が数パーセント程度のこともあるのですが、高分子ミセルの場合は、直接届きますから、はるかに高い効果が得られます。また、薬は普通の血管の穴を通ってしまうため、正常な細胞に対して副作用を起こす可能性が高い。その点、高分子ミセルは、普通の血管の穴は通らないので、副作用もなくなるのです。
──がん治療では、どんなに薬が効いたとしても、吐き気がしたり、髪の毛が抜けるのは患者さんにとって辛いものです。その意味でも素晴らしい治療法ですね。実用化の目途は立っているんですか?
片岡 はい。高分子ミセルにはさまざまな薬を乗せることができますので、今、5種類の薬で臨床試験を行っています。一番進んでいるのが乳がんの抗がん剤「パクリタキセル」で、15年中には承認申請する見込みです。
──待ち遠しいですね。高分子ミセルを使えば、がんの手術は必要なくなるんですか?
片岡 将来的にはそういう時代も来るかもしれませんが、現時点では手術で治療するのが基本です。高分子ミセルを使うことで、取り切れなかったがん細胞を退治したり、転移を抑えるのに役立ちます。特に威力を発揮するのが、目に見えない転移ですね。手術や放射線治療が不可能な患部にも高分子ミセルなら辿り着くことができ、薬を届けてくれるんです。
──それはすごい。実用化すれば、患者は副作用もなくなり、助かりますね。
片岡 はい、それを目指しています。また、高分子ミセルは大量生産も可能なため、いつでもどこでも使える薬になり得ます。遺伝子編集などの先端治療はいってみればフェラーリですが、我々がつくろうとしているのはエコカーなんです。がん治療には両方が必要だと考えています。
アルツハイマーや再生医療。さまざまな方向で発展の可能性
──高分子ミセルを使って、今後はどのような展開を考えておられるのですか?
片岡 高分子ミセルを使ったがん治療はまだ認可されていませんが、認可されれば、新薬の開発とともに、次のステップに進むことができます。また、現在の高分子ミセルは一番シンプルな形のものですが、次の段階として、高分子ミセルそのものの機能を進化させていくことも考えています。
──例えば?
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