こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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「味覚」「おいしさ」を数値化することで、 人間の完成にますます磨きをかけたい!

「味覚」や「おいしさ」を数値化する

九州大学大学院システム情報科学研究院教授

都甲 潔 氏

とうこう きよし

都甲 潔

1953年福岡県生れ。九州大学工学部電子工学科卒業。同大学院博士後期課程修了後、助手、助教授を経て、現職。研究テーマは味覚センサー、匂いセンサー、感性バイオセンサー。世界で初めて「味を測る」という概念を提唱し、味覚センサーを開発した功績で、文部科学大臣表彰・科学技術賞受賞。数々のテレビ番組にて、味と匂いに関する科学技術の啓蒙活動も行なっている。電子情報通信学会、次世代センサ協議会、日本味と匂学会などに所属。著書は『感性の科学』(朝倉書店、日本感性工学会出版賞受賞)、『味覚を科学する』(角川書店)、『旨いメシには理由(わけ)がある』(角川書店)、『プリンに醤油でウニになる』(サイエンス・アイ新書)、『ハイブリッド・レシピ』(飛鳥新社)など多数。

2010年11月号掲載


都甲 音楽の世界で、200年以上も前のバッハやベートーベンの曲を再現できるのは、彼らの作品が「楽譜」として保存されてきたからです。食の世界でも、数値化されたデータを「食譜」として残せば、秘伝の味、おふくろの味を後世まで伝えることができます。

また、このセンサーを使うと、2つ以上の食材を混ぜ合わせて、まったく違う食べ物の味をつくり出すことができるんです。錬金術ならぬ「錬味術」といったところでしょうか。

──といいますと?

都甲 例えば、プリンに醤油をかけるとウニの味になりますし、温かい牛乳に刻んだたくあんを入れるとコーンスープ味になるんです。これらは、味覚センサーお墨付きの組合せです。騙されたと思って、ぜひ試してみてください(笑)。私は、このような意外な食材の組合せから新しい味をつくり上げるレシピを「ハイブリッド・レシピ」と呼んでいます。

「牛乳」+「たくあん」でコーンスープの味
 もともとの食材の味
 そっくり度
『ハイブリッド・レシピ』(飛鳥新社)より

 

──面白そうですね(笑)。

そういえば、味覚センサーは大学や公的研究機関、食品・飲料メーカーなどに導入され、新製品の開発やマーケティング、品質管理などに実用化されているとか。味を数値化したことで、さまざまな可能性が見えてきそうです。

「経験」「文化」は数値化できないが、「五感」は数値化できる

 

──ところで、「味」と「おいしさ」は違いますよね。同じ味の食べ物でも、色や形、盛り付け、においなどに加えて、その時の体調や心理状態も「おいしさ」を左右します。例えば、空腹時、あるいは好きな人と一緒に食事をすると、何を食べてもおいしく感じられるといった具合に。

都甲 おっしゃる通りです。

人間の感じる「おいしさ」というのは、「味覚」「触覚」「視覚」「聴覚」「嗅覚」といった五感はもちろん、育った土地の気候や経験、文化などの影響を受けるものです。

これは元来、他の動物にはない人間独特のものです。

──味は客観的に分析できますが、「おいしさ」を測ることはできるのでしょうか。


近著紹介
『感性の起源』(中公新書)
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