こだわりアカデミー
これからは、太陽電池の時代。 環境のためにも電気自動車の普及が重要になります。
環境にやさしい時速370kmの電気自動車「エリーカ」
慶應義塾大学環境情報学部教授
清水 浩 氏
しみず ひろし
1947年、宮城県生れ。東北大学工学部博士課程修了。76年、国立環境研究所(旧国立公害研究所)入所。82年、アメリカ・コロラド州立大学留学。その後、国立公害研究所地域計画研究室長、国立環境研究所地域環境研究グループ総合研究官を経て、現在、慶應義塾大学環境情報学部教授。環境問題の解析と対策技術についての研究(電気自動車開発、環境技術データベース開発)に従事。国立環境研究所時代から電気自動車の研究開発を始め、27年間で7台の試作車開発に携わり、2004年、「Eliica(エリーカ)」の実現に至る。現在、「エリーカ」市販に向けて研究を進めている。著書に『電気自動車のすべて』(日刊工業新聞社)、『温暖化防止のために 一科学者からアル・ゴア氏への提言』(ランダムハウス講談社)他。
2008年7月号掲載
清水 まずは、生産コストを下げることです。現在、自動車に乗せる大型リチウムイオン電池の価格が非常に高く、1台分で2000万円も掛かります。
とっかかりとして大量生産は難しいため、まずはターゲットをハイエンドに絞って、50台限定で販売し、弾みを付けていこうと考えています。
──一般の工業製品と同じように、大量生産できれば、コストを抑えられ、将来的には、一般の人も買える値段になるのかもしれませんね。
清水 従来の自動車と比べて構造が簡単なので、生産ラインで年間10万台作れるようになれば、値段はむしろガソリン車よりも安くなると思います。
──エリーカは、環境・運動性能に優れ、ランニングコストも低い。後は価格を下げて、メンテナンスのサポートと安全性が確立できれば、間違いなく普及しそうですが…。
清水 試作品の商品化や、大量に普及させる難しさを実感しています。
おっしゃる通り商品とは、信頼性、耐久性と同時に生産性も兼ね備えていなければいけません。でも、この大きな壁を乗り越えて、実用化を目指していきたいと思います。
太陽光発電が温暖化の解決策に
──これからはCO2を減らす時代。電気自動車は、環境の面においても大きく貢献していきそうですね。
清水 たしかに現在、温暖化の原因は自動車が約20%を占めています。世界的にこの割合は増えていて、特に発展途上国で自動車の大量普及が始まると、莫大な量のCO2の発生が懸念されています。
これまでの自動車はガソリンや軽油といった化石燃料を使わなければなりませんでしたが、これが電気自動車に替われば、高い省エネが実現できます。さらに、電気そのものを脱CO2にできればいいと思っています。
──それには風力・原子力・太陽光発電など考えられますが・・・。
清水 太陽電池で発電して、リチウムイオン電池に蓄える。そのエネルギーを、電力と熱利用に用いるとともに、電気自動車にも供給するのです。
──その他の自然エネルギーは利用しないのですか。
清水 水力や風力などもかなり高い効果はあるものの、最大の効果量の点でやや難があります。温暖化を抜本的に解決できる可能性としては、太陽電池が最も優れており、将来的には、時代を画する技術になるでしょう。
──太陽電池には資源制約の問題がなく、来るべき石油枯渇の抜本的対策にもなり得そうですね。
清水 そうです。世界の1・5%の面積に太陽電池を設置すれば、世界中の人がアメリカ人と同じくらい贅沢に電気を消費することができるくらいの能力を持っています。
今まで、19世紀に発明された技術を使ってきて、CO2による温暖化や石油枯渇問題が出てきました。今まさに、21世紀型の技術に切り替えていく時代が来たのです。
──21世紀型技術とは、先程のリチウムイオン電池、ネオジウム鉄磁石などですね。
清水 ええ。いずれも日本は、世界一の技術を持っています。日本でしか作れない技術もあり、最先端の技術を使うのに一番有利な立場にいるのです。
今後はこうした技術によって、産業が活性化し、ひいては世界に平等にエネルギーが行きわたる時代がやってくるでしょう。
──とかく環境に良いことは、我慢をしたり節約をすることだったり、生活を不便にするようなマイナスなイメージがあります。しかし、先生のお話を聞いていると、そんな行き詰まりの状況ではないと?
清水 その通りです。未来は明るい。日本を中心に、これから良い時代になりつつあります。
まだ世の中は、そうした認識が薄いのですが、多くの人々に理解していただいて、将来にわたってエネルギーの心配のない社会ができるようにしていきたいです。
──そのためにも、ぜひ電気自動車を普及させていってください。
本日はありがとうございました。
エリーカ試乗体験
従来の電気自動車のイメージを覆し、世界から大きな注目を浴びている話題の電気自動車「エリーカ」。今回試乗させていただき、予想を超える加速を体験しました(松村)。
一番の価値は「加速感」
──直線100m程のコースでしたが、一気に100kmまでスピードが出ましたね。短距離でも、気持ちの良い加速を味わえました。
清水 この「気持ち良さ」が大事で、スタート地から目的の速度まで同じ加速力で行ける「加速感」が、人間は本来好きなんです。
──エリーカに乗って、それが実感できました。
清水 車の価値は、「加速感」「室内空間の広さ」「乗り心地」の3つに集約されます。この3つが大きければ必ず売れる商品になるでしょう。
──エリーカは3つとも叶えていますね。
清水 特に重要なのは加速感で、エリーカの一番の価値は、世界最速の370kmというスピードよりも、むしろ、思ってもみない加速感を実現できたことなのです。
──スピードよりも加速だと。
清水 飛行機は時速1000kmのスピードで飛んでいますが、乗っている人にそんなことは分かりません。人間が体で感じるのは加速なんです。
人間は、加速が良い車に対してずっと憧れを持っており、車を開発する上で、重要な要素となっています。
『温暖化防止のために―科学者からアル・ゴア氏への提言』(ランダムハウス講談社) |
※清水 浩先生は、2013年3月に慶應義塾大学環境情報学部教授を退職されました(編集部)
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