こだわりアカデミー
未だに解明されていない昆虫の羽ばたき。 研究が進めば、一大産業が生れる可能性も 秘めているのです。
昆虫の飛行を解明する
千葉大学工学部電子機械工学科教授
劉 浩 氏
りゅう ひろし

りゅう ひろし 1963年、中国遼寧省沈陽市生れ。85年、大連理工大学応用力学学科卒業、92年、横浜国立大学博士課程修了。名古屋工業大学、理化学研究所などを経て、現職に。計算力学やバイオメカニクスなどの研究に従事。昆虫の自由飛行を再現できるシミュレーターの開発等を行なっている。
2006年1月号掲載
飛行シミュレーター誕生
──もしかすると、近い将来、昆虫サイズの小型飛行体が、誕生するかもしれませんね。
劉 はい。実は近年、他国でも、羽ばたき飛行の研究が注目されていて、例えば、アメリカでは、サイズ15cm以下の超小型飛行体「MAV(Micro Air Vehicle)」の開発が盛んに行なわれています。
順調にいけば、原型モデルが4、5年後には完成する予定です。
──先生もこうした研究をされているのですか?
劉 私は、スーパーコンピュータを使い、実際に昆虫の静止・前進・旋回など、すべての自由飛行を再現できるコンピュータシステムを開発中です。
コンピュータを使えば、模型だけでは不可能な、空気力や慣性力も考慮でき、昆虫飛行の全体像を把握できるからです。
──コンピュータ上なら昆虫の自由飛行を再現できるのですね。
劉 このコンピュータシミュレーションの中では、昆虫ロボットのテスト飛行にも成功しています。
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「MOTH-1」と名付けた羽ばたきロボット。風洞を使ってシミュレーターの実力を検証中(写真提供:劉浩氏) |
──これを利用すれば、すべてを計算でき、本物の昆虫ロボットの改良点など、実際の設計にも役立てられるのですね。
劉 そうです。ロボットはもちろん、新しい力学現象の再現が可能となり、小型飛行体の開発にも、革新的な技術を提供できそうです。
──そうした研究はどの辺りまで進んでいるのですか?
劉 コンピュータシミュレーションで得られたデータをもとに、昆虫の実物の10倍の大きさの羽ばたきロボットを作り、風洞を用いてシミュレーターの実力を検証中です。
──これが進めば、昆虫ロボットの実現も近いものですね。
でも昆虫は小さいですから、実際のロボット作りは大変な作業ですね。
劉 日本は、細かい技術は秀でています。昆虫の羽ばたき研究についても、今後進展していけば、技術の裾野が広がると、期待が集まっています。
──将来的に、昆虫ロボットが完成すれば、どのような場面で応用できるのでしょうか?
劉 例えば、被災地やテロの現場などで、偵察機として飛ばせば、安全に情報収集することができます。
また、昆虫ロボットにCCDカメラを積つめば、人間が立ち入ることのできない現場でも、ライブで中継することも可能です。
あっては欲しくないですが、もちろん軍事に用いれば、強力な武器となるでしょう。
──いろいろお話を伺いましたが、昆虫の羽ばたきを研究することが、われわれ人間の社会にとって、実にさまざまな可能性を秘めていることを感じました。
劉 私は小型飛行体や昆虫サイズのマイクロマシンが、今後絶対に一つの大きな産業になると考えているんです。
──夢のあるお話ですね。実用化に向け、研究が着実に進展していくのを楽しみにしています。
本日はありがとうございました。
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