こだわりアカデミー
未だに解明されていない昆虫の羽ばたき。 研究が進めば、一大産業が生れる可能性も 秘めているのです。
昆虫の飛行を解明する
千葉大学工学部電子機械工学科教授
劉 浩 氏
りゅう ひろし

りゅう ひろし 1963年、中国遼寧省沈陽市生れ。85年、大連理工大学応用力学学科卒業、92年、横浜国立大学博士課程修了。名古屋工業大学、理化学研究所などを経て、現職に。計算力学やバイオメカニクスなどの研究に従事。昆虫の自由飛行を再現できるシミュレーターの開発等を行なっている。
2006年1月号掲載
飛行機と昆虫の飛び方の違い
──ところで、同じ空を飛ぶのでも、飛行機と昆虫とでは、飛び方が異なると思いますが、それぞれの飛行のメカニズムについて教えてください。
劉 まず空を飛ぶには、体を宙に浮かせる上向きの力、つまり揚力と、前進する力、推進力、この2つの原理が働いています。
飛行機の場合、揚力は翼、推進力はエンジンで得ており、これに対し昆虫は、羽ばたきだけで両方の力を発生させているのです。
──具体的にはどういった仕組みなのですか?
劉 飛行機の翼の断面は、下面より上面の方が膨らんだ流線型で、空気が流れる速さは、上面の方が速くなっています。
すると、翼への圧力は、下面の方が大きくなるため、上向きの空気力が発生します。
──その力が揚力ですね。
劉 そうです。ただし、常に前進して空気流を作らなければ、揚力は発生しません。だからエンジンで推進力を得ているのです。
──何百人もの乗客を乗せたジャンボ機が飛べるのは、翼の上下の圧力の違いにより、自重を上回る大きな揚力を生み出しているからなのですね。
それでは、羽ばたきだけで揚力と推進力を同時に発生させる昆虫は、どのような飛び方なのですか?
劉 まだはっきりと解明されていないのですが、羽ばたきによって、翅の前縁にできる空気の渦が、非常に重要なことが分っています。
また、翅の横方向の動き「8の字回転」でも揚力を得ていると考えられています。
──昆虫は、羽ばたきながら、この空気の渦を上手く捉えて飛んでいるというわけですね。
劉 その通りです。飛行機の場合は逆で、乱気流は厳禁です。もし翼に空気の渦が発生すれば、揚力はなくなり墜落してしまいます。
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(左)流線型をした飛行機の翼の断面。(右)昆虫の翅の断面。上向きの力が揚力、前進する力が推進力。空を飛ぶには、この2つの原理が働いている(資料提供:劉浩氏) |
──やはり同じ飛行体でも、2つは全く違う飛行メカニズムだったのですね。
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