こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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現代人のミトコンドリアDNAは、 すべて20万年前の一人のアフリカ女性にまで遡ります。

ミトコンドリアDNAで探る人類のルーツ

(独)国立科学博物館人類研究部人類史研究グループグループ長

篠田 謙一 氏

しのだ けんいち

篠田 謙一

1955年静岡県生れ。79年京都大学理学部卒業後、同年産業医科大学医学部助手、86年佐賀医科大学医学部助手、96年同大学助教授、2003年国立科学博物館人類第1研究室長を経て、09年現職。遺伝子を調査・解析し、人類の進化やルーツを探る分子人類学を専門としている。日本や周辺の諸国の古人骨のDNA解析を進めて、日本人の起源を追究しているほか、スペインによる征服以前のアンデス先住民のDNA研究から、彼らの系統と社会構造について調査している。共著に『骨の事典』(朝倉書店)、『日本列島の自然史』(東海大学出版会)、監修に『科学でみる! 世界史』(学研マーケティング)、著書に『日本人になった祖先たち』(日本放送出版協会)などがある。

2010年10月号掲載


篠田 最近では、Y染色体の解析も進んできています。

──Y染色体とは、人間の中にある、23種類の染色体のうち、男性だけが持つ染色体ですよね。

篠田 はい。ミトコンドリアDNAが1万6千塩基対程度の大きさなのに対し、Y染色体は他の染色体に比べれば小さいとはいえ5千万塩基対にもなり、大き過ぎるため、変異を探し出して系統を調べることが困難でした。しかし、最近ではだいぶ研究も進んできています。

Y染色体は男性をつくる遺伝子を含んでいるので、受精卵はこの染色体を持つと男性になります。ですから結果的にY染色体は父親から息子へと受け継がれていくので、Y染色体のDNAも人類の系統を追究するのに適しているのです。

──これまでの研究ではどのようなことが分っているのですか?

篠田 私は、スペインによる征服以前のアンデス先住民のDNA研究をしているので、現在の先住民の系統も調べるのですが、現代では、ほとんどの女性のミトコンドリアDNAは、昔から南米に住む人のものでした。しかし、男性のY染色体では、8〜9割にヨーロッパ人の遺伝子が含まれていることが分ったのです。

──男女で人類の移動経路が違うわけですか。研究が進めば、人類の侵略の歴史や民族移住など、私達がこれまで知らなかった過去が、明らかになってくるかもしれませんね。

篠田 さらに最近では、古人骨の持つミトコンドリアDNAの研究も進んでいます。90年代の終わりには、約3万年前に絶滅したとされるネアンデルタール人の骨から、DNAの抽出・解析に成功しています。

研究は人骨資料の調査と発掘作業を基に、国内外で行なわれている。写真右は、ペルーでの人骨の発掘現場。写真左はベトナムでの人骨の発掘の様子〈写真提供:篠田謙一氏〉
ベトナムでの人骨の発掘の様子〈写真提供:篠田謙一氏〉

──そういえば、現生人類の一部は、ネアンデルタール人と交雑して、遺伝子を受け継いでいたというニュースがありましたね。

篠田 よくご存知ですね。約40万年前に現れたネアンデルタール人は、人間に近い人類ですが、両者の間に交雑があった可能性も見えてきました。

──現代人と古代人のミトコンドリアDNA、Y染色体と、多面的に研究が進められると、人類の起源や歴史などさまざまなことが明らかになってきそうですね。

篠田 そうですね。ただ、解析の方法によっては、必ずしもDNAが示す拡散のルートだけが正しいとは限らないので、化石や考古学的な研究から得られた成果とも整合しながら研究していきたいと思っています。

──人類のルーツに迫るご研究、今後の展開を楽しみにしています。本日はありがとうございました。


近著紹介
『日本人になった祖先たち』(日本放送出版協会)
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