こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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色に対するイメージは、文化、国家を超えて 世界共通なんです。

色彩イメージは国境を越える

色彩心理学者 武蔵野美術大学造形学部教授

千々岩 英彰 氏

ちぢいわ ひであき

千々岩 英彰

1938年、佐賀県生れ。61年、東京教育大学教育学部卒業。東京都立大学大学院博士課程修了。色彩心理学専攻。日本色彩研究所研究員を経て、現在、武蔵野美術大学教授。日本デザイン学会評議委員、日本色彩学会、日本心理学会会員。著書に『おしゃれ上手の色彩手帖』(96年、宝島社)、『人はなぜ色に左右されるのか』(97年、河出書房新社)、『世界の色彩感情事典』(99年、河出書房新社)など。

2000年3月号掲載


「優雅さ」を表す色は日本ではピンク、欧米では黒

──色彩感情がまったく世界共通になるのは、ちょっと淋しい気がしますね。

千々岩 ただ、国ごとにその詳細を見ると、多少の違いがあることが分るんです。

例えば、好きな色はどの国も先ほど言った青や赤などで共通していますが、もっと個別に詳しく見ると、中国、ラオス、バングラィデシュでは白を最も好み、欧米諸国、オセアニア諸国は白をそれほど上位に挙げません。またロシアやフィンランド、オランダ、ポルトガルなどは黒を最も好み、日本、ドイツ、イタリアは、青紫や黄、赤など鮮やかな色を最も好む傾向にあるようです。

世界的に好む色は似ているが、国別に詳しく見てみると、日本、ドイツ、イタリアは青紫、黄、赤など鮮やかな色を最も好み、中国、ラオス、バングラデシュは白や淡い色、欧米やオセアニア各国は濃いオレンジ、濃い青紫、灰色など暗く濃い色を好む傾向にある
世界的に好む色は似ているが、国別に詳しく見てみると、日本、ドイツ、イタリアは青紫、黄、赤など鮮やかな色を最も好み、中国、ラオス、バングラデシュは白や淡い色、欧米やオセアニア各国は濃いオレンジ、濃い青紫、灰色など暗く濃い色を好む傾向にある

また、例えば「優雅さを表す色は」という質問には、世界的には黒、白の回答が多いのですが、日本を始めアジアは紫系のピンクを挙げています。

──これはどういうことを意味しているのですか?

千々岩 紫系のピンクは「教養を持ったご婦人」のイメージからくるようです。一方、黒は「黒を着た紳士」という意味合いがあり、欧米などはずばり黒を挙げています。ですから外国の化粧品は高級感を出すためにパッケージには黒を使うところが多いでしょう。

──アジアは女性をベースに、欧米では男性をベースに考えたということなんでしょうか。

千々岩 そうです。生活や文化で色へのイメージも変るようです。例えば、「家庭」という言葉に相応しい色を選ばせたら、世界的に赤系の色を選ぶところが多かったのですが、アメリカの学生の一割が「青」を選んだ。これは家庭を仕切る人のイメージが母親、つまり女性系に限られず、父親など男性をイメージする人もいるということの現れです。

ですからこの調査から、アジアからは母系文化、欧米からは父系文化を垣間見ることができたのです。

──なるほど、いわゆる色彩感情には、人間としての普遍的な面、学習的面、そして文化・社会的な面があるのですね。

千々岩 確かにそういうことが言えますね。特に「献身」に相応しい色は何かという問いでは、非常に面白い結果が見られました。

まず中国は赤だったんです。これは何を表していると思います?

──国旗の色ですよね?

千々岩 そうなんです。彼らはまず第一に国を思い、「国に捧げる」という意識があるようです。また日本ではピンク系で、先ほどと同じように母親を思い起こすようです。そして欧米では青。この場合の青はキリスト教のシンボルカラーの意味があると思われます。ヨーロッパやアメリカ、ニュージーランド、イギリスなどで国旗に青を使っていますよね。

──一つずつ拾っていくと、非常に面白いことが見えてきますね。

「献身」という言葉に相応しい色は何かという質問では、各国の文化や社会を映し出す特徴的な回答が見られた
「献身」という言葉に相応しい色は何かという質問では、各国の文化や社会を映し出す特徴的な回答が見られた

千々岩 そうでしょう。欧米の「献身」の青は、柔道着にも現れており、最近、白ばかりでなく青も見られるようになりました。日本では神道的精神を背景に「柔道=白」となっているわけで、当初、日本の柔道協会は「譲れない」と言い張ったのです。しかし、欧米では青が同様の意味で柔道の精神を表すと考えれば、相互に認め合わないといけない。今ではそういう方向に意識が変りつつあります。

──確かに、柔道は今や日本だけのスポーツではなく、世界的なものになっているのですから、他国の価値観も受け入れていかないといけませんね。

千々岩 これは柔道着に限ったことではなく、いろんなことに当てはまるでしょう。色は言語以上に、21世紀の有力なコミュニケーション手段になると思います。その代り、その国におけるその色の持つ意味、背景を理解した上で、適切に選ぶことも必要になってくるでしょうね。

──また、悲しみを表現するのにピンクではおかしいように、色の世界共通概念も勉強しないといけませんね。

最後に先生の今後のご研究テーマは?

千々岩 この国際的な色彩感情の調査・研究をベースに、例えば、室内の壁や天井、調度品に使っている色の快適性は百点満点でいうと何点かなどが換算できるようなソフトづくりを行なって、実用化を目指しています。

──われわれの実生活だけでなく、新しいビジネスの材料としても活用が期待されますね。

本日はありがとうございました。


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