こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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古代の技術や生活を実験したり、実践することで たくさん面白い発見があります。

縄文生活を再現する

原始技術史研究者 和光大学非常勤講師

関根 秀樹 氏

せきね ひでき

関根 秀樹

1960年福島県生れ。和光大学中退。東北工業大学客員研究員、原始技術史研究所主任研究員を経て、同研究所主幹、和光大学非常勤講師に。同時に、古代楽器・民俗楽器のコンサートを仕掛けたり、各地の美術館や博物館で多彩なワークショップを展開している。主な著書に『民族楽器をつくる』(93年、創和出版)、『縄文生活図鑑』(98年、創和出版)など。

1999年9月号掲載


道具を買う現代、道具をつくる古代

──「火起こしの授業」とは、本当にユニークですね。火を起こすのはすごく難しいと聞きますが。

「キリモミ式発火法」で火を起こしているところ。熟練した人なら30秒足らずに起こすことができる

「キリモミ式発火法」で火を起こしているところ。熟練した人なら30秒足らずで起こすことができる

関根 そんなことはありません。私は、六秒で起こしたこともあります。だいたい熟練した人なら、二分足らずでできますね。もちろんコツもありますが、まず道具の材質と寸法が重要です。

例えば、「キリモミ式発火法」というのがあります。縄文時代から平安時代頃まで行なわれていた代表的な発火法ですが、この棒の部分の材質はキブシとかウツギ、そして板は軟らかいスギが適しています。

──結構、簡単にできるんですね。やっぱり、実際やってみないと本当のことは分らない。そういう意味で先生のご研究は、現代の常識を打ち破るものとも言えますね。

関根 そうですね。よく皆さんは「縄文時代は火を起こすのも難しく、とても不便な生活だった」とおっしゃいますが、そんなことはない。逆に、モノの溢れている現代の方が不便だと私は思っています。

なぜなら、何をするにもまず道具を調達しなければいけませんが、現代人は「店で買う」ことしか知らない。もし店がなかったら、何もできません。でも古代の人達は、その辺にある木や石などを使って、道具からつくってしまうんですからね。

手づくりしたアイヌの楽器・ムックリは、表面に細かい模様が描かれており、精巧にできている(上)。手づくりの楽器を自ら演奏する(下)<br>手づくりの楽器を自ら演奏する(下)
手づくりしたアイヌの楽器・ムックリは、表面に細かい模様が描かれており、精巧にできている(上)。
手づくりの楽器を自ら演奏する(下)

──確かに、そう考えると現代生活は不便ですね。生きるための知恵、たくましさなどが物質文明に呑み込まれてしまった感があります。

関根 こういうことが、社会にいろいろな歪みを引き起こしていると思います。特に、その犠牲になっているのが子供達。人としての豊かさ、ナチュラルな心と身体を持ち合せていない子供達が多くいます。自然と向き合った遊び、道草、旅、いろんな人達との出会い、読書…、そういうものを通じて「身体知」、いわゆる実際に生身の体験の中で得る「知」が必要なのです。

私の研究は、頭で考え、手や体を使って学ぶ、まさに「身体知」を形成してくれます。学問というより遊びですね。この楽しさを多くの人達に伝えたいと思い、各地の美術館や博物館などで、古代の楽器のつくり方を教えたりするワークショップを開催しています。

──確かに、私達は便利な道具をつくりだし、生活を物質的には豊かにしてきましたが、その代り人間としての豊かさを犠牲にしたように思います。

私達人間は社会の中の生き物のように思っていますが、本当は自然の中に生きていることを今日は改めて思い起しました。興味深いお話、ありがとうございました。


近著紹介
縄文時代の生活様式が詳しく書かれている先生の著書『縄文生活図鑑』(創和出版)
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