こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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モンシロチョウの研究を通して、 動物の進化における「オス」の重要性が分かってきました。

モンシロチョウから見えてきた「パイオニア雄」による生物進化の可能性

東京農工大学名誉教授

小原 嘉明 氏

おばら よしあき

小原 嘉明

1942年福島県生まれ。64年東京農工大学農学部卒業、東京農工大学助手、助教授を経て、86年同大学教授。この間、九州大学理学部生物学教室、ケンブリッジ大学(イギリス)動物学教室、ワイカト大学(ニュージーランド)生物学教室にて研修。理学博士。専攻は動物行動学。著書に『オスとメス 求愛と生殖行動』(岩波ジュニア新書)、『入門 動物の行動』(岩波書店)、『イヴの乳』(東京書籍)、『モンシロチョウ』(中公新書)など多数。

2012年12月号掲載


 


小原 それが意外にも、視覚によるもので、人間には見えない紫外線によって、雄雌の翅を識別していることが分かりました。
試しに、カメラのレンズに紫外線だけ通すフィルターを付けて撮影したところ、雌の翅は白く、雄の翅は黒く映ることが分かりました。測定機器で調べた結果、雌の翅が強く紫外線を反射しているのに対して、雄の翅はほとんど反射しないんです。

──それはすごい発見です。人間には見えない色が雌の翅に隠されていることに、よく気付かれましたね。

静止姿勢の雄と雌の標本(左)と標本の紫外線写真(右)。左が雄、右が雌<写真提供:小原嘉明氏>

小原 ありがとうございます。しかし、その後の詳しい研究で、雌の翅の紫外色は、日なたと日陰、季節や生息場所によってさまざまに異なることが明らかになったのです。
また、ヨーロッパをはじめ、ユーラシア大陸のいくつかの国の雌は、日本の雌ほどは紫外線を反射していないという情報も入りました。

──同じモンシロチョウでも国や地域によって雌の翅の紫外色が異なるのですか。

小原 はい。私はそれを検証するべく、ロンドン自然史博物館にお願いして、世界中のモンシロチョウの撮影・調査を行いました。そして、日本型の紫外色のある雌は少数派であることが分かりました。
また、さらに詳しく調べるため、実際に、世界各地でモンシロチョウを採集し、紫外線反射の調査を行いました。すると、紫外線写真で見る雌の翅は、ヨーロッパでは黒く、ユーラシア大陸の東端ではライトグレーに、さらに日本では白いことが判明したのです。

──地域による差がはっきりと出たのですね。
となると、今度はどのタイプがモンシロチョウ原種だったのかが、気になってきますね。

小原 そうなんです。研究は思いもよらない方向に展開して、モンシロチョウの起源について調査することになりました。
そして世界中のモンシロチョウの遺伝子構造を分析したところ、ヨーロッパが誕生の地であったことが判明し、その後、東へと分布を広げてシルクロードを渡り、日本には4000〜3000年前に渡ってきたらしいことが分かりました。

──日本型のモンシロチョウは、少数派だったのですね。

イギリスのモンシロチョウのカラー写真(左)と紫外線写真(右)。どちらも左が雄、右が雌(上段が背面、下段が腹面)<写真提供:小原嘉明氏>

小原 さらに調べていくうちに、東アジア特有のモンシロチョウの塩基変異パターンの中に、どういうわけかヨーロッパのモンシロチョウ特有の塩基変異の一部が紛れ込んだものがいることが分かったのです。

──それは東アジアまで到達した後に、ヨーロッパの原生種が来たというわけですね。

小原 そうなんです。これは、おそらく、ヨーロッパ人によるアジア地域の植民地化時代に起こったのではないかと考えられます。人間の交易が盛んになる中で、持ち込まれたキャベツなどに卵や幼虫が付いていて、進化的には祖先にあたるヨーロッパのモンシロチョウと、末裔である東アジアのモンシロチョウが、あいまみえることになったのでしょう。

──なるほど。亜種関係ですが、問題なく繁殖して世界に広がっていったのですね。

生物学的常識を覆す「パイオニア雄」の存在


小原 最近では、亜種関係だけでなく、モンシロチョウが別種でも交雑している可能性が高くなってきました。
実際に私は、モンシロチョウの雄が、成功こそしませんでしたが、スジグロシロチョウの雌に交尾を仕掛けているところを見たことがあります。
さらに、2012年のはじめに奇妙なチョウを発見しました。

──それはどういうものなんですか?

 


近著紹介
『進化を飛躍させる新しい主役』(岩波ジュニア新書)
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