こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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托卵について研究していると 動物の進化が確認できるんです。

カッコウとオナガの闘い−托卵に見る進化

信州大学教育学部教授

中村 浩志 氏

なかむら ひろし

中村 浩志

1947年長野県生れ。信州大学教育学部卒業。京都大学大学院博士課程修了。信州大学教育学部助手、助教授を経て、昨年3月教授に就任。理学博士。今まで、カワラヒワ、ブッポウソウ、オオジシギなどさまざまな鳥の生態を研究している。カッコウが日本にいるのは2か月半ということで、調査も短期決戦、カッコウが渡ってくると体重も次第に減ってくるとか。今年7月にアリューシャン列島の調査隊に加わり1か月間滞在、9月にはスペインで開催された国際行動学会に出席、第二回目の托卵鳥の国際会議を開くなど、多忙な毎日を送っている。カッコウとオナガについての研究は「アニマ」(平凡社、92年6月号)に掲載されている。

1993年11月号掲載


他の鳥に子育てさせるしたたかなカッコウ

──子供の頃に、ホトトギスが自分の卵を他の鳥の巣に産んで子育てを任せてしまう、と聞いた時には本当かなと思ったものです。先生はそういう托卵する鳥、中でもカッコウの研究をされているそうですが、托卵というのは動物の進化のうえからみても大変不思議な話ですね。

中村 鳥の子育てというのは卵を温め雛を育ててと、ものすごく大変なんです。そんな大変な子育てを自分でしないで他の鳥にやらせるというのは、ずる賢さの極みなわけです。

ところがわれわれ研究者にとっては、そこがたまらない魅力なんです。人間の社会同様、生き物の世界でもそういうずる賢い仕組みは社会から排除されることになっています。それにもかかわらず、托卵というしたたかな仕組みがなぜ進化し得たのか、そこに魅力を感じて、今からちょうど10年前にカッコウの本格的な調査を始めました。

──日本での托卵の研究は、今世界的に注目されているということですが・・・。

中村 それは、進化の事実を今われわれが目の前で確認できるというチャンスに恵まれたからなんです。

生物の進化というのは、変る時には短時間で大きく変ってしまい、後は安定の時期に入ります。今われわれが目にできる生物の姿はほとんどが安定している状態で、動物の形態なり行動が、目の前で、時間とともに変化している状態に出会えるケースというのは、非常に少ないんです。カッコウの場合、われわれは偶然オナガへの托卵開始というまたとないチャンスに巡り合ったわけです。

──それはどういうことですか。

中村 カッコウはいろいろな鳥に托卵しているんですが、オナガへの托卵は今から20年、早くても25年くらい前に始まったばかりなんです。というのも、カッコウはもともと高原の鳥でしたし、オナガは平地で生活していたので、その分布が重ならなかったからです。ところがどういうわけか、今から30年ぐらい前からオナガは高原へ、カッコウは平地へと生活場所を拡大し、両者の分布が重なった結果、オナガへの托卵が始まったのです。

※托卵・・・自分ではいっさい子育てをせず、他の鳥の巣に産卵し、抱卵から育雛まで子育てのすべてを任せてしまうこと。日本では托卵習性を持つ鳥はカッコウ、ホトトギス、ツツドリ、ジューイチの4種類。いずれも夏に、托卵のためだけに訪れ、それが終ると南に帰ってしまう。
托卵の仕方は巧妙で、托卵をする鳥は産卵中の宿主の巣から卵を1個抜きとった後、自分の卵を1個産み込む。産み込まれた卵は宿主のヒナより1日か2日前に孵化し、宿主の卵を背中のくぼみにのせ、すべて巣の外に放り出してしまう。こうして巣を独占したヒナは宿主の世話を一身に集めて育てられる。


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