こだわりアカデミー
人間にとってあまり気になる存在ではないけれど 実は、ミミズがいなくなったら大問題なんです。
ダーウィンが始めたミミズ研究
中央大学経済学部教授
中村 方子 氏
なかむら まさこ
1930年東京生れ。53年、お茶の水女子大学理学部動物学科卒。東京都立大学理学部勤務を経て、現在、中央大学経済学部教授(生命科学担当)。主な著書に「生態学実習書」(67年、共著、朝倉書店)、「動物の物質経済研究法」(78年、共著、共立出版)、「バイオ・サイエンス」(82年、共著、芦書房)、「女性研究者−あゆみと展望」(85年、共著、ドメス出版)、「教養の生命科学」(95年、朝倉書店)、「ミミズのいる地球」(96年、中公新書)等がある。理学博士。
1996年10月号掲載
ミミズは土壌の動物性タンパクのまとめ役
──ところで、ミミズは、生き物の中では比較的地味な存在ですが、地球の生態系を考える上では大変偉大な存在だということですね。
中村 ほんとうにそうなんですよ。まず、ミミズは土や泥の中に散らばっている窒素を食べて、それを体内で動物性タンパクに変えます。そのミミズを野鳥やニワトリが食べるわけで、もし、ミミズがいなかったら、たとえ土の中に動物性タンパクがあったとしても、鳥たちはそれを摂取することができないわけです。
──なるほど。自らの身体が動物性タンパクのまとめ役になっているわけですね。鳥たちにとっては重要な栄養源だ。
中村 その鳥をわれわれ人間も食べているわけですから、私たちも結局、ミミズを栄養源としていることになります。
──大きな食物連鎖の中で、われわれ人間とも関係しているということですね。
中村 それから、ミミズが出した糞は植物の栄養源にもなります。つまり、落ち葉のような植物の遺体を食べ、動物性タンパクに置き換えて、その栄養たっぷりの糞を土の中に排泄するわけです。そうするとその土は、次の植物育成に再利用可能な状態になるというわけでし。もしこの役割が欠けると、生態系の潤滑な流れができなくなるということにもつながります。
──土壌を作ってくれるんですね、栄養豊かな土を・・・。
そう言えば、以前、春先の雨の日にあるゴルフ場に行ったら、グリーン一面に足の踏み場もないくらいにミミズがいて驚いたことがあるんです。キャディさんに聞いたら「ミミズの種をまいてる」と・・・。その時、ああ、ミミズってこういう使い方があるんだなと思いました。
中村 そうなんです。ミミズの糞の入った土をゴルフ場のグリーンにまくと、芝が大変良くなるということです。
一時は、ミミズがいるとモグラがきて土を掘ってしまい、グリーンが台無しになるというんで、ゴルフ場では殺虫剤などをまいてミミズや虫を全部殺していましたね。
しかしそれは結局のところ、土を痩せさせ芝を枯れさせる、また、薬が地下水に入り川に流れ込むということになって、人間にいい環境を及ぼさないということが分かってきたんです。
そういう意味で、最近はゴルフ場管理の考え方もずいぶん変わりました。
──やっとミミズに対する理解が出てきたのかな。ほんとに、自ら自然界の餌になると同時に、土粒の形成、浄化もやり、植物の栄養をも作っているというわけですから、偉大な生き物ですよね。
中村 それにミミズは伝染病の媒介をやるわけでもないし、人間に対して悪さをするわけでもありませんから、もうちょっと友好関係があってもいいのではないかと思いますね。
中村氏が採集したミミズを観ながら話が弾んだ |
1998年2月に『ヒトとミミズの生活誌』(歴史文化ライブラリー No.31)発刊。 ※中村方子先生は、2022年にご永眠されました。生前のご厚意に感謝するとともに、慎んでご冥福をお祈り申し上げます(編集部)
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