こだわりアカデミー

こだわりアカデミー

本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
MENU閉じる

昔では考えられなかったカビによる病気が 医療技術の進歩に伴い、非常に増えています。

人に棲みつくカビの話−病原真菌の恐怖

千葉大学真菌医学研究センター・センター長

宮治 誠 氏

みやじ まこと

宮治 誠

1937年神奈川県生れ。63年千葉大学医学部卒業。68年同大学大学院医学研究科修了後、同大学助手、73年助教授、77年教授に。87年同大学真核微生物研究センター(現:千葉大学真菌医学研究センター)センター長に。医学博士。日本菌学会会長。主な著書に『人に棲みつくカビの話』(95年、草思社)、共著に『病原真菌学』(92年、南山堂)など。

1999年4月号掲載


現在、カビの種類は、分かっているだけで7万種

──私自身、これまでカビについてさほど気にしていませんでしたが、先生の著書『人に棲みつくカビの話』を読ませていただきまして、非常に怖くなってしまいました。カビというと、日本酒、みそ、チーズなどの食品をつくる際、大変重要な役割を果たしているという一面もありますが、本日は、人に棲みついて害をもたらすカビのお話を中心に伺いたいと思います。

まず、カビにはどれくらいの種類があるのでしょう。

宮治 カビは、現在分かっているだけで7万種を数えます。キノコや酵母などもカビの仲間とされており、学問上ではそれらを総称して「真菌」と呼びます。おっしゃったように、カビには食品類の発酵を促すものや、抗生物質の原料にもなる有用な種類もあります。

しかし一方で、人間を死に至らしめるカビもあり、これが今、医学の中で大きな問題となっています。

──危険なカビには、どういうものがあるのですか。

宮治 まず身近なところでは、黒色酵母があります。これは、一般家庭の浴室の配水管や排水口のふたの裏などにもよく見られるもので、皮膚にある傷口などから体内へ侵入し、最悪の場合、内臓や脳に転移して亡くなることもあります。

また、空気中に飛び交っているカビも、肺から体内に入り込んで全身にまわることもあります。

──全身にまわると、どうなるんでしょうか。

宮治 死に至ります。生物は、細胞の構造から、核酸を囲む核膜を持つ真核生物と、持たない原核生物に分けられます。カビはよく、細菌の一種と思われがちですが、細菌は原核生物で、カビは人間と同じ真核生物なのです。そのため、カビに効く薬は同時に人間の細胞にまで悪影響を与えてしまい、全身にある程度まわってしまったら、手の施しようがありません。体の至る所にクモの巣のようにカビが生えている標本を見ますと、ゾッとします。

──恐ろしいですね。身を守る方法はあるんでしょうか。

宮治 あまり過敏になることはありません。外来種に例外的なものはありますが、健康な人なら、カビによる病気はほとんど起こらないのです。

実は、通常誰もがカビを始め、いろいろな菌などの微生物を皮膚や口腔、消化器官などに持っています。それらは互いにうまく棲み分け、「正常菌叢(せいじょうきんそう)」という菌の集団の中で身を縮めて生きているのです。しかし、例えばガンになった場合、抗ガン剤や抗生物質を大量に投与されたりすると、それに殺されてしまう菌があるんです。そうすると、その集団の中にいわば空席ができ、そこに勢力を伸ばす菌が現れる。異常繁殖した菌は、生体に対して悪さをします。よく起こる症状にカンジダ症がありますが、これはカンジダ菌というカビが引き起こすもので、抗生物質を長期間飲み続けたり、何か重い病気で体の抵抗力が極端に弱まったりした時などに表れます。


1 / 2 / 3     次へ

サイト内検索

  

不動産総合情報サイト「アットホーム」 『明日への扉〜あすとび〜』アットホームオリジナル 動画コンテンツ