こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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人間の最長寿命は120歳。 老化のメカニズムを解明し、平均寿命を延ばすことも 研究のテーマです。

なぜ人間には「死」があるか−老化のメカニズムを解明する

静岡県立大学大学院生活健康科学研究科教授

加治 和彦 氏

かじ かずひこ

加治 和彦

1943年水戸生れ。73年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修了。(財)東京都老人総合研究所研究員を経て主任研究員に。その間、米国ウイスター研究所で二年間細胞成長因子の研究を行なう。96年から現職に。理学博士。主な著書に『無血清細胞マニュアル』(89年、講談社)、『細胞とバイオサイエンス』(91年、朝倉書店)、『細胞培養ハンドブック』(93年、中外医学社)『老化と遺伝情報の発現』(97年、学会出版センター)など多数。

1999年8月号掲載


老化は千差万別。でも、どこかに共通点が・・・

──先生は「人の老化」の研究をご専門にされています。私も一人の人間としてとても興味のあることですが、あまりこの研究の話題を耳にしたことがありません。先生は、なぜこの分野に入られたんですか。

加治 子供の頃、私は昆虫少年でして、よく虫を観察していたんです。生命現象というのは、ものすごくドラマチックです。「どうして生きているのか」を追究したいと思っていました。でも、たまたま大学院卒業後に、「東京都老人総合研究所」という、まさに「老化」を専門に研究する機関に就職したことがきっかけで、この老化研究を始めたんです。

──老化は人の「死」へのステップでもあります。誰でも死は怖く、不老不死でありたいと願うこともあるわけで、そういう観点からも興味深いテーマですが、実際、老化のメカニズム解明はどれくらい進んでいるのですか。

加治 実は、発生学は早くから学問として成り立っていますが、老化学はなかなか研究対象として取り扱うのが難しく、研究が遅れています。なぜなら生命のスタートはみな同じで、かつ成長過程もほとんど一緒ですから、とても研究しやすいんです。逆に、死因が人それぞれ異なるように、老化のプロセスも個体ごとに大きく違い、千差万別なのです。

──その違いはどこからくるんでしょう。もちろん、それぞれの個の遺伝子にもよるでしょうし、生活環境の違いによって生じる部分もあるんでしょうね。

加治 そうですね。水や空気、栄養、さらに生活パターンなどもかなり影響します。しかし、そんな中にも「共通の老化メカニズムがあるんじゃないか?」と考え、細胞レベルで老化の研究をしています。

──老化のシステムは、生物はみな同じなんですか。

加治 まだはっきりとは分っていません。ただ、一般的に生物ならば必ず老いて死を迎えると思われていますが、私はそうではないと思います。例えば杉、これは千年も生きている。きっと永遠に死なないでしょう。どうしてなんでしょうね。例えば、フライパンとパソコンの寿命を比較してみると分ります。新婚時に買ったフライパンは銀婚式まで十分に使えますが、パソコンは十年もつかどうかです。これは、フライパンは形が単純である一方、パソコンはいろいろなパーツからできているとても複雑な構造だからです。

──なるほど。「死」は複雑に進化した生物の宿命ということなんですね。

加治 そうなんです。では、パソコンが故障したらどうするか。修理するか買い換えるかという選択肢が出てきますが、たいていの人は新しい物に買い換えますよね。その方が手間が掛からないですから。生物も同じで、修理するのは難しいので、買換えの代りにコピーをつくるようになった。そこで「死」という過程が生れたんだと考えています。

このようにして、どの生物にも遺伝子の継承という現象が見られるようになったのです。

──生物の個体は変っても、それは実は遺伝子が乗り物を換えるだけとも言えますね。


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