こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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雷の発生メカニズムは分っているものの まだまだ謎の部分も多いんです。

宇宙からの雷観測

大阪大学大学院工学研究科教授

河崎 善一郎 氏

かわさき ぜんいちろう

河崎 善一郎

1949年、大阪府生れ。73年、大阪大学工学部通信工学科卒業、78年、大阪大学大学院工学研究科通信工学専攻博士課程修了。工学博士。名古屋大学空電研究所助手、スウェーデン国ウプサラ大学気象研究所客員講師を経て、89年、大阪大学工学部講師。91年、大阪大学大学院工学研究科助教授、2000年、同研究科教授。現在に至る。93年、日本大気電気学会学術賞、98年、電気学会進歩賞、レーザ学会進歩賞を受賞。

2005年8月号掲載


落雷のメカニズム

──夏はまさに雷のシーズンですが、先生は「雷」について、研究されていると伺っております。

雷というと、自然が引き起こす電気的な現象というのは分るのですが、なぜ雲にあんなに膨大な電気エネルギーが発生するのか、その仕組みについて教えてください。

河崎 太陽の熱で地面が暖められると、空気が暖まり水蒸気となって上昇します。水蒸気は上昇すると温度が下がり、細かい水滴や氷晶となって、雲ができます。

──雲は小さな氷の粒で形成されているのですよね。

河崎 そうです。その小さな氷の粒が、上昇気流に乗って上昇するにつれ、周囲の氷の粒を集めてさらに成長し、やがて大粒のあられになります。すると、今度は重たくなり、上昇気流に逆らって下へ落下するのです。

落ちていくあられと昇っていく氷の粒が接触すると、その温度差によってあられがマイナスの電気を帯び、氷の粒がプラスの電気を帯びます。これが、雷雲発生の仕組みです。

──なるほど。

すると、雷雲の上部には、上昇した氷の粒のプラス電気、下部には、落下したあられのマイナス電気が溜まるわけですね。

河崎 はい。このように雲の下にマイナス電気が溜まると、大地にプラス電気を呼び寄せます。雷雲は、このマイナスとプラスの電気を中和させるために、空気の壁を破り、放電を引き起こします。これが落雷です。

──つまり落雷は、雲の中に溜まった電子を、空気が持ちきれなくなり、電子雪崩が起きた状態なのですね。

河崎 その通りです。これは身近にある静電気の発生と同じ仕組みです。


光と雷鳴の正体

──ところで、落雷のとき、稲妻はなぜギザギザとした形になるのですか?

河崎 落雷は、およそ100万分の1秒間進んで、10万分の1秒間休止します。そして、また100万分の1秒の速さで進み、それを繰り返して地面に向かって落ちていきます。

──休み休みだから、枝分かれや、折れ曲がった形になるというわけですね。

いずれもオーストラリア・ダーウィンでの落雷の様子。世界中で毎秒100個の落雷があるといわれている(写真提供:河崎善一郎氏)
いずれもオーストラリア・ダーウィンでの落雷の様子。世界中で毎秒100個の落雷があるといわれている(写真提供:河崎善一郎氏)

では、落雷のときに、電光と雷鳴が伴うのはなぜですか?

河崎 一瞬で空気の中を通る落雷は、加熱電気のかたまりで、とても高い温度を持っています。

雷によって暖められた空気は、2万−3万度という高温になり、電気エネルギーの一部が光エネルギーに変り、光るのです。

──それがピカッと光る正体なんですね。

河崎 はい。一方、雷鳴は、稲妻が走った軌跡部分の空気が加熱し、瞬間的に爆発膨張すると、周囲に強い衝撃音波を起こします。これが雷鳴の正体です。

──雷鳴がゴロゴロと数秒間も鳴り続けるのはなぜですか?

河崎 稲妻は、ジグザグに折れ曲がっているため、折れ曲がりごとに特定の方向に強く伝わります。

だから、すべての音源からの音が私達に届くまでに時間差が生じて、ゴロゴロと聞こえる訳です。

──ところで、1回の落雷で生じる雷のエネルギーはどのくらいなのですか?

河崎 数字で表しますと、電流は1千−20万アンペア。電圧が200万−2億ボルトで、一般家庭の電圧の2−100万倍です。

これを、家庭用の電力に推定すると、1世帯の2月分くらいの消費量にあたります。

このエネルギーの大部分は、大空いっぱいにまき散らされ、光や音のエネルギーとなります。

──それはもったいない。それだけのエネルギーなら、何とか利用できないものでしょうか?

河崎 確かに、世界中で毎秒100個の落雷があるといいますから、これを利用できればすごいエネルギー量に違いありません。雷は電気なので、溜めるなり、熱に変えるなり、何らかの利用方法があります。

しかし、現状ではとても無理な話です。

──なぜでしょうか?

河崎 いつどこに雷が落ちるのか、事前には予測できませんし、まして、みんなが使えるだけのエネルギーを集め回ることは、不可能だからです。

例えば、1人に「1円欲しい」といえばもらえるでしょう。日本中を集め回れば1億2000万円になり、大金持ちになれます。しかし、1人に1分の時間をかけたとしても、生きているうちには集めきることはできません。

雷も同じように、1個ずつは可能でも、みんなが利用できるだけ集めるのは不可能なのです。


雷から身を守る?!間違った知識

──私は以前、飛行機に搭乗中に、雷に撃たれた経験があります。そのときは、バリっと音がして一瞬停電した程度で、乗員・乗客ともに無事でした。なぜ被害がなかったのでしょうか?

河崎 電気は、金属に囲われた物の中には入れない特性があります。飛行機の機体や主翼は、ほとんどが金属でできているため、雷に撃たれても、電流は金属部分を流れ、空気中に流れ去ったのです。

日本では、年間数十回、飛行機が雷に撃たれていますが、重大な事故は起きていません。

──そうすると、落雷に対して、建物や自動車などの内部は、安全な場所というわけですね。

河崎 そうです。

反対に危険な場所として、木の下が挙げられます。よく間違った知識で、「高い木の下は安全」といわれますが、実は非常に危険です。

高い木は落雷の可能性が高くなる上に、木の幹などから、人体へ電流が飛び火して感電する「側撃」を受けることがあるからです。

──よく身体に付けた金属をはずせば、安全になるとも聞きますが…。

河崎 それも間違っています。雷は金属の有無に関係なく、高いものがあると、これを通って落ちる傾向があります。金属を外しても安全にはなりません。

また、安全対策として、ゴム長靴やレインコートなど、「絶縁物を身に着けろ」ともいわれますが、これも雷から身を守る効果は全くありません。

──伺ってみると、誤った知識がたくさんありますね。

他に、身近で危険な場所として、どこが挙げられますか?

河崎 地形としては、運動場やゴルフ場など平らで広い場所です。厚い黒雲が現れたら危険信号です。急いで建物や車の中などに避難してください。

──もし落雷の危険が迫ったら、どうやって身を守ればいいのですか?

河崎 ゴルフクラブやラケット、傘など、長いものはすぐに手放すこと。そして姿勢を低くし、できるだけ低い場所へ移動することですね。

──分りました。

雷というと、とても怖いイメージがありますが、実際に撃たれるとどうなるのですか?

河崎 落雷は、直接人体に放電する「直撃雷」と、落雷を受けた物体から放電を受ける「側撃雷」があります。

人が落雷を受けると、電流が体内を流れ、心拍・呼吸が止まり、死亡するケースもあります。

年間で日本では約20人、世界では約千人の方が雷で亡くなっています。


宇宙からの雷観測

──先生のこれからの研究テーマは?

河崎 オーストラリアの北部の町、ダーウィンでの野外観測に、力を入れていきたいと思います。

──なぜダーウィンなのですか?

河崎 この地域は赤道に近く、「世界の煙突」と呼ばれるエリアで、積乱雲がよく発生します。世界で一番高い雷雲もできるため、観測にはもってこいなのです。

ベネズエラ・マラカイポ市郊外にて。右から3番目が河崎氏。この地は、いつも同じ場所が光り、電光を灯台代わりにすることから「自然の灯台」と呼ばれている(写真提供:河崎善一郎氏)
ベネズエラ・マラカイポ市郊外にて。右から3番目が河崎氏。この地は、いつも同じ場所が光り、電光を灯台代わりにすることから「自然の灯台」と呼ばれている(写真提供:河崎善一郎氏)

──具体的にはどんな観測をされているのでしょうか?

河崎 雷の発生メカニズムは分っているものの、実際に雲の中でどのように電気が溜まり、消費されるのか、まだまだ謎の部分も多い。そこで雷観測センサーを独自に開発し、昼夜を問わず、すべての雷光を観測しているのです。

──その機械によって、雷の動きが分るのですね。

河崎 複数の広域帯アンテナで雷の電波を受信し、位置を確認する測定機なのですが、測定したデータは、パソコンに記録され、ビジュアル化されます。

河崎氏が現在取り組んでいる「広帯域干渉計」。雷の電波を受信し、位置を測定する(写真提供:河崎善一郎氏)
河崎氏が現在取り組んでいる「広帯域干渉計」。雷の電波を受信し、位置を測定する(写真提供:河崎善一郎氏)

集中豪雨と地球温暖化の関係が、従来から指摘されていますが、その解明にも役立ちそうです。

──期待がかかりますね。

先生は他にも、宇宙からの雷研究もされていると伺いましたが…。

河崎 はい。人工衛星に広帯域干渉計というセンサーを搭載し、宇宙から、雷の発生を予報する開発に携わっています。

人工衛星の名前は「まいど1号」といいます。

──ああ、知ってます! 大阪府の東大阪宇宙開発協同組合※が独自に取り組んでいる小型人工衛星ですよね。

聞くところによると、広帯域干渉計を宇宙で使うのは、世界でも初の試みだとか。

河崎 そうなんです。宇宙からだと、雲の中の放電でも高度や形状を正確に検知し、発生場所や移動方向がいち早く分るんです。

実用化すれば、障害物の多い山間部や観測網の届かない海上の雷予報にも活用できます。

──それはすばらしい。

現在の進捗状況はいかがですか?

河崎 現在は1号機が来年春に上がる予定です。また、2号機も来年度中に打ち上げて、実用機は2008年の打ち上げを目指しています。

──楽しみにしております。

本日はありがとうございました。

 

※世界有数の技術を持つ中小企業が集まる東大阪の職人集団が、小型人工衛星の開発を目指して設立した、製造業の協同組合のこと



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