こだわりアカデミー

こだわりアカデミー

本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
MENU閉じる

方向オンチは、ちょっとした工夫と努力で 克服することができるんです。

方向オンチの心理学

静岡大学教育学部助教授

村越 真 氏

むらこし しん

村越 真

むらこし しん 1960年、静岡県生れ。85年、東京大学大学院工学系研究科修了。静岡大学教育学部講師を経て、90年より現職。14歳からオリエンテーリングを始め、大学入学後、本格的に競技に参加。19歳で全日本オリエンテーリング選手権チャンピオンとなり、以後15連覇、通算21勝の記録を持つ。著書に『道迷い遭難を防ぐ 最新読図術』(01年、山と渓谷社)、『方向オンチは人生オンチ!−』(02年、サンマーク出版)、共訳に『頭の働きを科学する│学習・記憶・脳(P.チャンス他編)』(91年、マグロウヒル出版)など。

2002年7月号掲載


方向感覚の優劣は関係ない? 自称「方向オンチ」脱出法とは?

──ところで、先生は道迷い解消を科学するプロとして、さまざまなテレビ番組にご出演され、そのコツを指南していらっしゃいますね。

愛知県内の小学校でオリエンテーリングの指導にあたっている村越先生。この模様は、NHK中部「ほっとイブニング」スポーツコーナーで放送された(写真提供:村越真氏)
愛知県内の小学校でオリエンテーリングの指導にあたっている村越先生。この模様は、NHK中部「ほっとイブニング」スポーツコーナーで放送された
(写真提供:村越真氏)

村越 ええ。方向オンチは、心理テストと並ぶほどに関心が高いようで、質問を受ける機会がとても多いのです。それだけ、方向オンチを自認する方が多いということなのでしょうが、こういう方が実際に方向感覚に劣っているかというと、実はそうともいえないのです。

──といいますと?

村越 一般的に「方向オンチ」は、目的地にうまくたどり着けない、何度行っても覚えられない、地図を見てもよく分らないなど、道迷いに関連する状態に陥りやすい人をいいます。決して方向感覚の優劣ではないのです。ですから実験を行なうと、確かに道には迷うけれど、出発地点やゴール地点の方向は分っているというケースが多いのです。

──私も、どちらの方向を目指すのかくらいは分りますよ。

村越 それであれば心配には及びません(笑)。ちょっとした工夫と努力さえすれば、道迷いを減らすことは可能です。

──ぜひ、その術をお伺いしたいのですが。

村越 まず、通ったことがある道で迷ってしまうというケースからお話ししましょう。この場合のポイントは、何といっても目印です。道に迷いやすい人ほど、ポストや電柱といったどこにでもあるような物や、時間によって変化する物を目印にしてしまう例が多いのです。例えば、車や自転車、それから店頭ののぼりを目印として覚えていても、次に通った時に同じ場所にあるとは限りませんよね。

──私の場合、さすがに車や自転車を目印にすることはありませんが…(笑)。

村越 では、曲り角に喫茶店があったとします。ですが、次の角にも喫茶店があったらどうですか?

──そうなると、ちょっと…(笑)。

村越 そうでしょう(笑)。では、困らないためには、どうすれば良いのか。それはなるべく視点を広げれば良いのです。喫茶店だけでなく「その隣には花屋さんがあったな」などと、目印の対象を広げ、組み合せて覚えておくだけで道迷いはぐんと解消されるはずです。

また、初めて通る時に、時々後ろを振り返るだけでも道迷い防止にかなりの効果を発揮します。道に迷いやすい人は、見る方向が逆になっただけで分らなくなってしまうものなんです。だから、行く時に帰りの風景を頭に入れておくといい。

──それだけで道迷いをある程度防止することができるんですね。

しかし、地図を頼りに初めての場所を目指すとなると、そんなに簡単にはいかないと思うのですが…。

村越 道に迷いにくい人というのは、目や耳から入ってくる情報と手元の地図の情報を統合して、自分が地図上のどこにいるのかを常に確認しているものです。また、これから目に飛び込んでくるであろう風景を予想し、本当にそうなるのかどうか絶えず確認しているのです。

──地図を読みながら、その先を読んでいると?

村越 その通りです。道に迷いやすい人はこれができないために、しばらく歩くと実際の進行方向と地図上の進行方向が一致しなくなってしまう。そして、目的地どころか現在地さえも分らなくなってしまうというわけです。

──両者は具体的に何が違うのでしょうか?

村越 道に迷いにくい人が平面全体を統合して2次元でイメージすることができるのに対して、どうも道に迷いやすい人は、前後左右しかない1次元的にしかイメージできていないようですね。

──克服する方法はありますか?

村越 誰しも体内地図を持っているものです。まずはそれを認識すること。そして、迷ったかもしれないとパニックにならず、きちんと状況を把握し作戦を練り直すことです。もし本当に道に迷ってしまったのであれば、不安に駆られて分りもしない場所を歩き回るよりも、潔く元の場所に戻り、新たに作戦を立てて再出発した方が得策です。ですが、これをできる人はそういませんね。

ところで、一つお伺いしたいのですが、地図を手に目的地を目指す際、地図を逆さまにしてみたり、横にしてみたりすることはありますか?

──はい、目指す方向に地図を合せるようにしていますが…。

村越 素晴らしいですね。 常に向かっている方向が北であるとは限りません。西に向かう時は、地図をその方向に向ければいいのです。これだけで解消される道迷いは多いと思いますが、これも結構できない人が多いのです。

方向オンチは、よく生れつきだという人がいますが、別に固定した物ではありません。地図の読み方をちょっと勉強する、また先ほどの注意点を意識するだけで、随分変ります。ぜひ実践していただきたいと思います。


近著紹介
『道迷い遭難を防ぐ 最新読図術』(山と渓谷社)
前へ     1 / 2 / 3 / 4     次へ

サイト内検索

  

不動産総合情報サイト「アットホーム」 『明日への扉〜あすとび〜』アットホームオリジナル 動画コンテンツ