こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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フォークボールは落ちていない! −スーパーコンピュータで魔球の解明に挑む

変化球の謎に迫る

理化学研究所情報基盤研究部情報環境室室長

姫野 龍太郎 氏

ひめの りゅうたろう

姫野 龍太郎

1955年、大分県生れ。77年、京都大学工学部電気系学科卒業。79年、同大学院修士課程修了後、日産自動車に入社。主に車の空気力学的特性を数値解析する研究に従事。98年、フォークボールの計算機シミュレーションの研究を機に理化学研究所に転職、同年より現職。工学博士。コンピュータ・ビジュアリゼーション・コンテスト最優秀賞、日本流れの可視化学会・映像展芸術賞、日本機械学会・学会賞および計算力学部門業績賞など多数受賞。著書に『魔球をつくる』(2000年、岩波書店)、共著に『魔球の正体』(2001年、ベースボールマガジン社)

2002年6月号掲載


車、魔球、血液。「流れ」をキーワードに広がる研究

─ところで、現在は血液の流れのご研究をされているそうですが、これまた魔球とはかけ離れていますね。

姫野 そんなこともないですよ。同じ流れですから(笑)。

─でも、医学との連携も必要になりますよね?

姫野 そうですね。その点、理化学研究所というのは、非常に恵まれた環境です。といいますのは、ここは物理、科学、工学、生物学、医科学の五分野が集結している、世界でも珍しい研究所なんです。違う分野の専門家がすぐ近くにいるので、その先生方と協力していろいろな研究ができるわけです。

─なるほど。では、血液の流れの研究とは、具体的にどんなことですか?

姫野 正常な血の流れをシミュレーションで作って、それと比較してどれくらい機能が落ちているか、どこに異常があるか分るようにする研究です。脳の動脈瘤(りゅう)なんかは、将来破裂するかどうかまで予測できます。破裂しないことが分ればそのままにしておいても大丈夫ですから、無意味に手術をして患者に負担をかけなくても済むのです。

また、もう一つ取り組んでいるのは、心疾患の場合に行なうカテーテル手術を練習できるソフトの作成です。

─カテーテルというのは?

姫野 先端にバルーンを付けた細い管のことです。それを足の付け根から動脈に挿入し、狭窄(きょうさく)部でそのバルーンを膨らませて血管を押し広げれば、開胸せずに手術をすることができます。

─それは心臓病の人にはうれしいことですが、難しそうですね。

姫野 はい。この方法はモニターを見ながら作業をするので、慣れていないと難しいのですが、今のところぶっつけ本番でやるしかありません。そこで、シミュレーションソフトを使って練習してもらおうと考えたわけです。これを使えば、MRI等のデータから直接計算して、患者さん一人ひとりに合せた練習ができます。

─車、魔球、血液と、研究の幅はどんどん広がっていきますね。

姫野 そうですね。せっかく理研という恵まれた環境にいるので、横断研究ができるという強みを活かして、人の役に立つ研究をしていきたいと思っています。

─ますますのご活躍を期待しております。本日はありがとうございました。


近著紹介
『魔球をつくる 究極の変化球を求めて』(岩波書店)
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