こだわりアカデミー
1/fゆらぎは謎だらけですが 非常に大きな可能性をもっています。
F分の1ゆらぎの謎にせまる
東京工業大学名誉教授
武者 利光 氏
むしゃ としみつ
1931年東京都生れ。54年東京大学理学部物理学科卒業後、同年、日本電電公社電気通信研究所研究員、64年マサチューセッツ工科大学研究員、65年スウェーデン王立工科大学研究員、66年RCA東京研究所研究員に。67年東京工業大学助教授、教授を経て名誉教授に就任。1/fゆらぎの草分け的存在で、77年には第1回「1/fゆらぎに関する国際会議」を日本で開催し、以降2年ごとに世界各地で行なっている。また、94年には(株)脳機能研究所、(株)ゆらぎ研究所を設立し社長を兼任。著書に『ゆらぎの発想〜1/fゆらぎの謎に迫る』(94年、日本放送出版協会)、共著に『ゆらぎの科学』(91年、森北出版)など。
1998年11月号掲載
風も太陽も人間もゆらいでいる
—— 私が「1/f(エフ分の1)ゆらぎ」という言葉を聞いたのは、数年前テレビで流れていた扇風機のコマーシャルだったように思います。先生はその1/fゆらぎ研究の第一人者と伺っておりますが、まず1/fゆらぎとは一体どういうものかお教えください。
武者 1/fゆらぎは、いくつかある「ゆらぎ」の種類の1つなんです。ですから、1/fゆらぎのお話をする前に、まずゆらぎの説明をしましょう。
ゆらぎ自体をはっきり定義するのは難しいんですが、ものの予測のできない空間的、時間的変化や動き、といったら良いと思います。予測は、規則性があるからできるので、言い換えるとゆらぎとは、ものの空間的、時間的変化や動きが、部分的に不規則な様子ともいえますね。
ゆらぎは、世に存在するすべてのものに表れます。例えば、風は突然吹いて、そして突然止まることもあります。風は不規則な動き、いわばゆらぎの代表格の1つです。
—— しかし、太陽や星などの天体は、規則正しい軌道運動をしていて、とてもゆらいでいるようには見えないんですが。
武者 太陽や星などでさえ、やはり少しずつゆらぎながら軌道運動しており、決して一定ではありません。大体の動きは予測できますが、細かいところまで完璧な予測はできないんです。岩石も温度によって膨張、収縮しますし、中でも特に生物は、規則的な運動ができません。私達人間だってそうなんですよ。
—— そういわれると確かに、私自身も何かをする時、こうしようと思って動作を起こしますが、次の瞬間、実際に細部がどういう動きをするかなんて予測できない。そう考えると、私自身もゆらぎながら生きているんでしょうか。
武者 そうです。
ただ、人間の行動を数字にするのは複雑ですが、例えば、体温の変化や心拍間隔ゆらぎは簡単です。そうしたゆらぎを数字に置き換えますと、図1のようなグラフになります。それを周波数(frequency=f)ごとに分析しますと、図2のように単調な波形に分けることができます。すると、ゆらぎをいくつかの種類に分類でき、その中に、1/fゆらぎがあるんです。
—— 1/fゆらぎを見つけ出すのは、なかなか複雑で、難しいんですね。
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