こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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「シンデレラ」などのメルヘンには、 歴史的な情報がたくさん含まれているのです。

メルヘンから歴史情報を読み取る

大妻女子大学社会情報学部教授

森 義信 氏

もり よしのぶ

森 義信

1943年東京都生れ。66年北海道大学文学部卒業、71年同大学院文学研究科博士課程修了。その後、国立釧路工業高等専門学校助教授、文部省教科書調査官を経て現職。専攻は西洋法制史、社会史、メルヘン学。フランク時代の国家制度や社会構造を、当時の法史料に基づいて解明している。また、メルヘンに内在するさまざまな歴史情報を捜し出して解読し、メルヘンが本当に伝えようとした真実を明らかにしている。著書に『西欧中世軍制史論 封建制成立期の軍期と国制』(原書房)、『メルヘンの深層- 歴史が解く童話の謎』(講談社)、『メルヘンの社会情報学』(近代文芸社)など。

2009年10月号掲載


 知見を広げようと中世文学を読み進めるうちに、フランスのペローやドイツのグリム兄弟のメルヘンなどに出会いました。すると、その中にはゲルマン法に関連する象徴的な物や行為が、さまざまな形で入り込んでいることが分ったのです。

──例えば?

 グリム兄弟が伝えるシンデレラ物語の中では、「木の枝」が登場しています。
父親があるとき年市に出掛けるのですが、ふたりの連れ子からは宝飾類、シンデレラからは一本の「はしばみの小枝」をねだられ、土産として持ち帰るというくだりがあります。

──確かシンデレラはそれを亡くなった母親の墓の前に植えて、木が育つと願いが何んでも叶えられるようになるんですよね。

 そうです。ゲルマン法では、土地に生えている「草土」「木の枝」などが「土地に対する所有権」を意味するという規定があります。小枝を渡すというのは、土地所有権の譲渡の際に、所有権者から新しい取得者に対して行なわれるゲルマン古代からの象徴的な法律行為なのです。

つまり、シンデレラが父親に「はしばみの小枝」をおねだりした行為は、母親の財産の分与を要求したという意味になります。

──なるほど。他にはどんな例がありますか?

 法律ばかりでなく、当時の風習や人々の考え方が映し出されている印象的な例として、皆さんご存知の「赤ずきん」の話があります。「赤」という色は扇情的な色として当時は娼婦などのみだらな女性をイメージさせる色でした。「狼」は荒れ狂う男性、「森の中に一人で暮らすおばあさん」からは、姥捨てという習慣があったことが読み取れます。

「赤ずきん」赤ずきんをかぶった女の子が、おばあさんになりすました狼に話し掛けている<資料提供:森 義信氏>

「赤ずきん」

赤ずきんをかぶった女の子が、おばあさんになりすました狼に話し掛けている<資料提供:森 義信氏>

つまり、扇情的で目立つ色の頭巾をかぶって歩いていた少女が、危険な男に声をかけられ危ない目にあったのは、当然といえば当然のことなのです。西欧の親達はこの童話を娘への警告として利用してきたといいます。

──当時の社会背景、人々の価値観などを結び付けて童話を読んでいくと、いろいろなことがみえてきますね。もっとたくさんお聞きしたいものです。

日本の昔話の中にもヨーロッパのメルヘン


──今後はどういった研究をされていくのですか。


近著紹介
近況報告

森先生は同大学を16年3月に退職されました。

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