こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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われわれは自然とともに生きる 縄文人の心に帰っているのかもしれませんね。

弥生人の祖先霊信仰

歴史学者 明治学院大学一般教育部助教授

武光 誠 氏

たけみつ まこと

武光 誠

1950年山口県防府市生まれ。東京大学大学院国史学科博士課程を修了。現在、明治学院大学助教授。日本古代史専攻。主に、比較文化的視野を用いた日本の思想・文化の研究に取り組む。
著書「日本誕生−−『古代国家』大和とまつろわぬ者たちの物語」(91年発行、文藝春秋)は、近年の新発見を組み込みつつ、日本統一への道や古代史像を新たな視点で描いたもの。他著に、「邪馬台国100話」、「古代日本人の生活の謎」、「日本古代国家と律令制」などがある。

1991年12月号掲載


首長霊信仰によって日本統一をなし遂げた大和朝廷

──日本の古代史については、意外に皆知っているようで知らないのではないかと思います。学校の教科書にも明確な記述がないので、日本という国の誕生について、われわれ素人には、曖昧で不明瞭な部分が多いんです。

そこでまず、日本の誕生、あるいは成立について教えていただけませんか。

武光 日本の成立というのは日本人の成立とも深く関わるわけですけれども、今のような日本人のもとができたのは、弥生時代の終わりです。

その前に縄文時代というのがあったわけですが、縄文人というのは、もともと北の方から日本列島に渡ってきた人たちで、狩猟、漁(ぎょ)ろうを中心に生活していました。そこへ、紀元前2世紀以降、水稲耕作という新たな文化を持った、いわゆる弥生人たちが、朝鮮半島から大量にやってきた。そして、縄文人と交流・混血しながら、弥生文化をつくりあげていったわけです。その弥生文化が日本国内で互いに交流して、ひとつまとまったものになったのが、3世紀の半ば頃です。

そしてその時期に、奈良盆地に今の天皇家の先祖にあたる大和朝廷が生まれて、日本統一への歩みを始めたのです。

──なるほど。その大和朝廷が、数多くの小国や部族をとりまとめ、日本統一をなし遂げた秘密というか、理由は何でしょうか。

武光 大和朝廷が国家統一を成し得た最大の要因は「首長霊信仰」といえると思います。すなわち、一つの信仰のもとにすべての日本人をまとめ、国家をつくりあげたのです。

──首長霊信仰とはどういう信仰なんですか。

武光 有力豪族の祖先を「首長霊」として祭り、その霊が、自身の子孫だけでなく、庶民も守ってくれるとする発想です。

そして大和朝廷は、「天皇霊(すめらみことのみたま)と呼ばれる大王(おおきみ)の首長霊を最も尊いものとし、これを頂点として、豪族達の首長霊の序列をつくりました。つまり、天照大神(あまてらすおおみかみ)がいちばん偉い神だとし、天皇の祖先神を中心に神々の序列をつくったわけです。

そしてそれを上から一方的に強制するのではなくて、確かに序列はあるけれども、民にとっては、各氏族、各地方の神様がいちばん大切だ、というように、それぞれの自立性を残しながらまとめていったんです。

──たいへんうまいやり方ですね。誰もが、自分たちの神様の系列をたどっていくと天照大神につながっていくわけですからね。国民の間に自然に一体感が生まれてくるというわけですね。

武光 そうです。一つの村が一つの神様を祭り、その信者同士がお互いに助け合ってまとまっている。その村々も、同じ神様を信仰するもの同士、助け合いにつながっているわけです。そういう日本の神社信仰はごく最近まで残っていました。今でも人間のつながりとか、人間の和というのは、われわれ日本人の中に根強くありますね。


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