こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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地域の文化や景観を、科学者の目で客観的に評価し、 伝えていきたい。

環境からの恩恵を数値化

金沢大学人間社会学域准教授

香坂 玲 氏

こうさか りょう

香坂 玲

1975年静岡県生まれ。98年東京大学農学部卒業、2004年フライブルク大学 (ドイツ)環境森林学博士課程修了。06年国連環境計画生物多様性条約事務局(農業・森林担当官)勤務後、08年〜12年、名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授を経て、12年より金沢大学人間社会学域地域創造学類環境共生コース准教授。08年〜10年に生物多様性条約COP10支援実行委員会アドバイザー、ほか国連大学高等研究所客員研究員を務め里山評価などにも参画。著書に『森林カメラ―美しい森といのちの物語』(清水弘文堂書房)、『地域再生-逆境から生まれる新たな試み』(岩波書店)、『知っておきたい知的財産活用術-地域が生き残るための知恵と工夫-』(ぎょうせい)など。

2014年3月号掲載


 

──確かにそういう見方をすると、人間と環境とのかかわりを何となくイメージしやすくなってきました。

香坂 そうやって皆さんの興味を環境へ誘うのが私の目的のひとつです。実は私の研究テーマはこの生態系サービスを評価することなんです。森林景観の分析に始まって、生物多様性条約に関わったり、地域活性化のお手伝いをしたり、確かに一見バラバラな分野を手掛けているように見えますが、自然からのサービスを評価するという点で見れば、自分の中ではすべてつながっていることなのです。

能登半島の景観や文化を、住民・観光客への調査で数値化

──今、日本の各地では、地域活性化に向かって観光客や若者の移住者を呼び込もうといろいろ取り組んでいます。先生の生態系サービスを評価される活動は、そうした地域活性化への取組みにも生かされるのではないかと思いますが。

香坂 はい。今、私は能登半島で地域活性化のお手伝いをしています。能登半島では、「能登の里山里海」が、11年に佐渡と共に日本で初めて世界農業遺産に指定され、農林業の営みをどう次世代に伝えていくかというプロジェクトが始動しています。皆さんに分かりやすい形で生態系サービスを評価して、一緒にいろいろ改善するとでもいいましょうか…。

──具体的にはどんなことをされているのですか?

香坂 例えば棚田などの景観や伝統的な農村文化、農業形態、在来種、伝統野菜などは「文化・レクリエーションのサービス」や「供給のサービス」と考えられます。これらをうまく使って地域を振興させる手段を地域の皆さんと考えています。現実的に一番の課題となるのは若者を呼び込むための雇用の創出ですので、そうした視点でアドバイスをしたり、経済的な指標を出すお手伝いもしています。

──金沢では15年春に北陸新幹線も開通しますね。いろいろ影響が出そうですが…。

香坂 そうですね。新幹線が開通すれば東京と2時間半で結ばれるようになります。大勢の観光客が訪れるのか、あるいはストロー現象で人の流れが東京へ向かって消費が落ち込むのか…、いずれにしろいろんな変化が起きるでしょう。能登ではほかにも空港などのインフラが整いつつありますが、逆にこれまで不便だったからこそ保たれてきた文化もある。棚田や伝統行事など、お金にはすぐには換算できないものだけれど、そうした文化をどう維持していくのか。それを科学者の目で評価して伝えていきたいと考えています。

──科学者の目で評価するとは、どういうことでしょうか?


近著紹介
『地域再生-逆境から生まれる新たな試み』(岩波書店)
近況報告

香坂 玲先生は、2022年より東京大学大学院 農学生命科学研究科教授に就任されました。

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