こだわりアカデミー
21世紀に地球全体の気温が上がれば 西南日本では干ばつの頻度が多くなるかもしれません。
日本は「風の国」
愛知大学文学部教授
吉野 正敏 氏
よしの まさとし
1928年東京生れ。51年、東京文理科大学地学科卒業。学生時代から「風」に興味を持ち、微気象学的な風の構造、小地形と風の関係、都市の風、局地風が農業や植生に及ぼす影響、成層圏の風の気候学、等々、40年余にわたって世界各地で観測と研究を続けている。主な著書は『Climate in a Small Area』(1975年東京大学出版会)、『気候学』(1978年、大明堂)、『世界の気候・日本の気候』(1979年、朝倉書店)、『新版小気候』(1987年、地人書館)、『風の世界』(1989年、東京大学出版会)−写真。日本学術会議会員、国際地理学連合副会長。環境問題との関わりも深く、最近は大学での講義の他、国内外の各種会議への出席等、多忙の毎日を送っている。
1993年8月号掲載
亜熱帯高気圧が台風の進路のカギを握る
──ところで、そろそろ台風のシーズンがやってきますので、この機会に、台風とは何なのか、ぜひお伺いしたいんです。まず、台風はどうやって発生するんですか。
吉野 台風は、熱帯で生まれた渦です。まず、海面の温度が高くなり、上空に冷たい空気が入ってきて温度差が大きくなると、いわゆる対流が起こってくる。これが台風の卵になるわけです。
──地域的には、どの辺で発生するんでしょうか。
吉野 北半球の、日本と関わりのある台風ということで説明しますと、赤道から少し北の熱帯地方に発生します。赤道直下は高緯度地方から冷たい空気が入って来ないので、強い対流が起こりにくい。だから台風は発生しないんです。
──その卵は、どんなふうに台風に成長していくんでしょうか。
吉野 例えば川の中に何かきっかけがあって小さな渦ができますと、大きな流れの中で、その渦が流されながら大きくなっていくことがありますね。それと同じ仕組みでして、最初発生した小さな対流が、流されながら、海面からエネルギーをもらってだんだん大きくなっていくんです。
──そのエネルギーは何なんですか。
吉野 太陽のエネルギーで海面が熱せられ、上空の冷たい空気との間に対流が起こりますね。海の水が水蒸気になって上昇していく、そして水滴(雨)になるときエネルギー(潜熱)を出すんです。そのエネルギーを自分自身がもらって大きくなるんです。
──大きくなりながら、どこに流されていくんでしょうか。
吉野 熱帯より少し高緯度側に亜熱帯高気圧があり、その南側は東風が吹いているんですが、台風は最初、その東風によって、西の方に流されていきます。フィリピンの方向ですね。通常、6月から8月にかけての台風は、亜熱帯高気圧の勢力が強いため、フィリピンからそのまま中国大陸に進んで、上陸すると消えてしまいます。
それが季節が進んで、8月、9月頃になってきますと、亜熱帯高気圧はだんだん勢力が弱くなって小さくなりますから、台風はそれに沿って、つまりその縁を回ってくるようになる。そうすると、その縁を回った北側は逆に西風が吹いており、それにあおられることになるのです。
──すると、台風が日本に来るか、来ないかというのは、そのあたりで決るんですね。
吉野 ええ、そうです。その高気圧の形、位置、大きさに関係しています。西の方まで張り出していれば、朝鮮半島や中国大陸の方へそのまま行ってしまう。すごく小さくなっていれば、小笠原のあたりでクルッと回って東の海上に去って行ってしまうこともあります。
──予想は難しいんですか。
吉野 そうですね。九州に来るか、東海道あたりに来るか、というのは北半球の大きさから考えれば本当に小さなことなので、それが台風の予想の難しいところです。
※吉野正敏先生は、2017年7月4日にご永眠されました。生前のご厚意に感謝するとともに、慎んでご冥福をお祈り申し上げます(編集部)
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