こだわりアカデミー
人間の皮膚をモデルに、有線でも無線でもない 新しい情報通信技術を開発しています。
人工皮膚で通信が可能に?二次元通信の可能性
東京大学大学院情報理工学系研究科 システム情報学専攻准教授
篠田 裕之 氏
しのだ ひろゆき
しのだ ひろゆき 1965年、神奈川県生れ。88年、東京大学工学部物理工学科卒業、90年、同大大学院計数工学専修修了、95年、博士(工学)。90年、同大助手、95年、東京農工大講師、97年、同大助教授、99年、カリフォルニア州立大学バークレー校客員研究員などを経て、2000年より現職。情報処理や情報伝達機構に触覚を組み込むことによってセンサやインターフェイスデバイスの能力を拡大する研究に従事、具体的には、触覚素子を応用した人工皮膚や、人間の皮膚に本物らしい触感を人工的に生じさせる触覚ディスプレイなどのほか、人間の皮膚を観察する情報入出力用センサなどを研究・開発。1999年、IEEE ICRA The Best Conference Paper Awardなど、多くの学会賞を受賞している。
2007年6月号掲載
人間の「触覚」に工学的にアプローチ
──先生は、皮膚の感覚をモデルにした、工学的な研究をされていると伺っております。皮膚というと、医学や化学、生物の分野なのでは…、と思うのですが。
篠田 もちろん私は工学系です。でも、人間の感覚に興味を持ったんです。
人間の感覚といえば、目はカメラが、耳は集音マイクなど、それぞれ代用する道具は既にあります。しかし、触覚を代用できるものはまだありません。人間の触感、つまり皮膚が得る情報の仕組みは、今でも解明されていないことが多く、言葉にできない面白さがあるんです。ちなみに、ロボットを研究している学者には、人間の感覚に興味がある人が多いようです。
二次元通信シートイメージ。柔軟な布などに多数のセンサを集積し、高速で通信することを可能にする「二次元通信は幅広い分野に"通信革命"をもたらす可能性がある<画像提供:篠田裕之氏>
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──確かに、面白いテーマですね。人間の皮膚は、温度や圧力はもとより「ざらざら」や「ぬめぬめ」など、素材感やテクスチャー(手触り)といったものまで、いろんな情報を得ることができますよね。
篠田 そうなんです。人間の皮膚には、刺激を感じるセンサが点在していて、それらがさまざまな情報をやりとりしています。どのような信号がやりとりされているか、最近の研究で大体の仕組みは理解できるようになってきましたが、人間の触覚にはまだまだ分らないことが沢山あります。
言葉にしにくいのですが、例えば一人がペンを持って、もう一人がそのペンを引き抜こうとすると、もともとペンを手にしていた人は、ちょうど引き抜かれないくらいの力でもって、ペンを掴みます。触覚で判断し、こういった力加減を変えることができるのは人間ならではなんです。
──それだけ精巧にできているということですね。
篠田 はい。しかしその一方で、目をつむっている人の腕などに少し離れた2点の刺激を与えると、正確な2点間の距離が分らない、また、2点あることすら分らない場合もあります。
人間の触感は高度なのに、曖昧。刺激を感じるセンサの機構自体はあまり複雑ではなさそうなんですが、ネットワークすることで、複雑な情報処理をしているようなんです。
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