こだわりアカデミー

こだわりアカデミー

本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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いいおもちゃは、見る力や聞く力、コミュニケーション 能力などを、身に付けるための手助けをしてくれるんです。

いい「遊び」や「おもちゃ」で、生きる力を身に付ける

東京おもちゃ美術館館長

多田 千尋 氏

ただ ちひろ

多田 千尋

1961年東京都生れ。明治大学法学部卒業後、プーシキン大学(ロシア)に留学。科学アカデミー就学前教育研究所、国立玩具博物館研究生として幼児教育・児童文化・おもちゃなどを研究。芸術教育研究所所長、早稲田大学講師、TBSラジオ子ども電話相談室回答者なども務める。また、同氏が理事長を務めるNPO法人日本グッド・トイ委員会で、「おもちゃコンサルタント」の養成に務めるほか、乳幼児教育・子ども文化、高齢者福祉・世代間交流についても研究・実践している。著書に『世界の玩具事典』(共著、岩崎美術社)、『グッド・トイで遊ぼう』(共著、黎明書房)、『おもちゃのフィールドノート』(中央法規出版)、『先生も子どももつくれる楽しいからくりおもちゃ』(共著、黎明書房)など多数。

2008年10月号掲載


 


多田 そうなんです。たびたび私も懸念を抱くことがあります。


先日、新幹線に乗った時のことです。ある家族が椅子を向かい合せにして座っていたのですが、目的地に到着するまでずっと、お父さんはスポーツ新聞、お母さんは携帯電話でメール、子どもは携帯ゲームをそれぞれやっていて、結局、会話したのはたったひと言だけでした。


──椅子を向かい合せにしているのはあくまでもポーズで、それぞれが“一人遊び”をしているんですね。


多田 その通りです。かつての車中では、家族がトランプをしたり、談笑したりしていたものですが、お気付きの通り、近頃ではそういった光景が少なくなってきているのではないでしょうか。


一人遊びであるコンピュータゲームに対し、複数の人で行なうかつての遊びは、人と関わり合う力やコミュニケーション能力を自然に育みました。また、そうした中から、子ども達は上下関係や力の関係、その人となりといったものを感じとったものです。しかし現在はそうした力が失われつつある。


──確かに、コンピュータゲームは音や色も派手ですし、面白い。夢中になるのも分らなくもありませんね。


多田 ええ、“楽しませてくれる”という点では、その通りだと思います。ただ、楽しみに対して受動的になってしまう傾向があるのではとも危惧しているんです。


というのも、遊ぶことの大切な役割の一つに、「楽しみを自己生産する力を養う」ことがありますが、コンピュータゲームなどの刺激の高い、“向こうからやってくる楽しみ”に慣れてしまうと、自分で楽しさを発見できなくなってしまうのではないかと思うんです。

 

 

現代のおもちゃは、ファーストフードのよう?


──石ころ一つでも面白いおもちゃになるものなんですが、石ころをおもちゃに変えられる力がなくなってしまうと・・・。


多田 そうなんです。


また、こんな研究も報告されています。コンピュータゲームをしている少年の前頭前野を調べたところ、ゲーム開始直後、β波が激減したそうです。前頭前野は意欲や判断力、情動抑制など、人間らしさを保つために重要な働きをしており、この部分が活性化したときに現れるのがβ波ですが、それが減ってしまう。こうした脳波は、実は認知症患者とそっくりなんだそうです。


──本来、遊びを通じて得ていた意欲や判断力、コミュニケーション能力を、現代では遊びを通じて失ってしまうかもしれないということですね。


近著紹介
『遊びが育てる世代間交流』(黎明書房)
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