こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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魚類の性転換の研究から、 環境問題解決の一つの糸口が見付かるかもしれません。

性転換する魚のメカニズム

自然科学研究機構 基礎生物学研究所 生殖生物学研究部門 特任教授

長濱 嘉孝 氏

ながはま よしたか

長濱 嘉孝

1942年北海道生れ。66年北海道大学水産学部増殖学科卒業、71年同大学院博士課程修了。72年カリフォルニア大学バークレー校動物学科博士研究員、74年ブリティッシュコロンビア大学動物学科博士研究員。77年自然科学研究機構基礎生物学研究所の助教授に就任し、86年教授。同年岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所教授。2005年戦略的創造研究推進事業における「性的可塑性の分子メカニズムに関する研究」の研究代表者に就任。04年基礎生物学研究所副所長を兼任、08年3月に定年退職し、同年4月より現職。著書に『生殖細胞の発生と性分化』(共著・共立出版)、『内分泌と生命現象』(共著・培風館)など。

2010年5月号掲載


長濱 なかなか難しい質問ですね。性転換魚は性決定遺伝子が見付かっていませんので、このような魚の生殖戦略なのかもしれません。

──私は、性転換する魚には「回遊魚」がいないように思います。つまり、性転換する魚は、サンゴ礁や岩礁といった特定のエリアで一生を過すものが多い気がするのですが…。

長濱 確かにそうですね。私達もまだサケなどの回遊魚を性転換の実験に使ったことがありません。

狭い空間の中で性別が偏ってしまうと、種の繁栄に大きなダメージを与えます。それを回避する手段として、性転換という現象が起こったのかもしれません。今後は、回遊魚も含めて研究を進めていくことで、性転換のメリットが解明できる可能性がありますね。

性差医療の研究にも性転換の研究が貢献

──先生のお話から、性転換にはホルモンが重要な役割を果たすことが分りました。魚の種類によって、ホルモンは異なるのでしょうか?

長濱 いいえ、ホルモンは魚類全般に共通しています。「エストロゲン」というホルモンがヒトの女性における性活動を保持するのに重要な役割を果たしていますが、実は魚のホルモンもこれと全く同じで、エストロゲンがないと卵を作ることができないんです。

──ヒトも魚も同じホルモンを持っているとは・・・驚きです。

ところで、近年、そうした自然に作られたホルモンではなく、化学物質から発生する「環境ホルモン」により、正常なホルモンの働きが乱されていると聞きますが・・・。

長濱 おっしゃる通り、環境ホルモンにより生物の生殖器や性行動が乱されていることが問題になっています。魚類の性転換のメカニズムを詳しく調べることで、こうした問題への解決策を導き出していきたいですね。

長濱嘉孝氏

さらに最近では、医療の世界においても性の違いに応じた治療法が注目され始めています。これを「性差医療」といいますが、こうした医学の発達にも、われわれの研究が貢献していけるのではないでしょうか。

──先生のお話を伺って、脊椎動物の性は実に多様性に富んでいることが分りました。さらに性転換のご研究は、環境や医療といった、私達の身近な問題への解決策まで導き出せる可能性もあります。性の研究は無限の可能性を持っているんですね。

今後も、先生のご研究が発展されることを期待しています。本日はありがとうございました。


近況報告

長濱嘉孝先生が基礎生物学研究所を退職され、2011年4月より、愛媛大学 社会連携推進機構 南予水産研究センター教授に就任。17年10月付けで退職されました。

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