こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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ダ・ヴィンチや平賀源内のように 一人の人がいろんなことをする生き方があっても いいと思うんです。

琥珀からDNAを抽出する

弘前大学農学部助教授

城田 安幸 氏

しろた やすゆき

城田 安幸

1948年布施(現東大阪)市生れ。77年大阪府立大学大学院農学研究課博士課程修了。同年弘前大学農学部助手となり現在に至る。この間79年から1年3か月オランダのワーヘニンヘン農科大学へ出張。94年にはハワイ大学進化生物研究グループと共同研究を行うため渡米。農学博士。従来の学者の枠内にとどまることを嫌い、さまざまな分野で活躍する。現在は「化石生物を蘇らせるプロジェクト」の代表を務め、化石昆虫や恐竜を蘇らせるべく研究に没頭中。この他冬虫夏草の大量飼育法も開発し、話題を集めた。著書にサンケイ児童出版文化賞を受賞した『君は進化をみるか−虫たちの語るもの』(79年、岩崎書店)、『仮面性の進化論−目玉模様に憑かれた人たち』(85年、海鳴社)、『絶滅生物が蘇る−失われたDNAを探せ』(97年、PHP研究所)。訳書に『マン・アフター・マン』(93年、太田出版)、共訳書に『生物ダイナミクス−生物科学におけるコンピュータ入門』(77年、講談社)、『行動生態学を学ぶ人に』(84年、蒼樹書房)、『マジック・アップル--まほうのりんご』(98年、成星出版)など多数ある。

1998年6月号掲載


「リンゴの紙」で出版される絵本『マジック・アップル-まほうのりんご』

──今度先生が出される絵本『マジック・アップル』が大評判を呼んでいるそうですね。

城田 この絵本の原作を20年前、家族とイギリスに行った時に見つけたんです。「自分だけのことを考えるのではなく、みんなのことを考える人が幸せになる」というテーマに、私も妻も大変共感を覚え、何とかこれを日本でも出版しようと思ったんです。

翻訳は妻と二人で行いました。それから、藤本義一さんや黒柳徹子さん、武田鉄也さん、川津裕介さん、三遊亭楽太郎さんにボランティアで多くの人達に知ってもらえるよう、呼びかけ人になっていただきました。お陰様でたくさんの問合せがありまして、初版は予約で完売状態です。

──この絵本はリンゴジュースの絞りかすの紙でできているそうですね。

城田 弘前大学のある青森県は日本一のリンゴの産地です。ジュースの絞りかすも日本一です。これを何とか利用できないかと思い、古紙とバージンパルプを混ぜて紙をつくったんです。

──開発にはどのくらいかかったんですか。

リンゴの紙でつくったさまざまな製品
リンゴの紙でつくったさまざまな製品

城田 大学の同僚と7年くらいかけて製品化し、特許も取りました。

このリンゴの紙は、紙としての質も良いものですし、加工もしやすいんです。長野県からも問合せがありまして、リンゴの紙でつくった紙皿が長野オリンピックの認定商品として、会場でも使われたんですよ。

──質感も色合いもいいですし、所々に細かいリンゴの皮などが見えているのも味わいがありますね。

『マジック・アップル』はこうした素材の面白さからも評判を呼んでいると思いますが、どんな内容なのか、さわりだけでもお聞かせください。

城田 大きな魔法のリンゴをめぐるお話です。

ポッターさんという心優しいおばさんがいまして、その人の庭にあるリンゴの木に大きなリンゴが実ります。「最初にひとかじりした人の願いごとが叶う魔法のリンゴだ」ということで、みんないろいろなお願いを考える。そして村人の代表である村長がお願いをするのですが…、この先がどうなるのかは読んでいただけたらと思います。

最近は、本離れといいますか、絵本を買う人も少ないそうですが、私達としてはできるだけ多くの方に『マジック・アップル』を買って読んでいただきたいと思っています。といいますのは、リンゴの紙の収益を森や林の保護と世界の子供達のために役立てようと思い「りんごのこころ、りんごのきもちプロジェクト」というボランティア活動を行っているからなんです。この絵本の印税の50%を寄付します。

そこで「20冊以上お買い上げいただいた個人や団体は、プロジェクトのご協力者としてお名前を最後のページに掲載させていただきます」という運動をやっています。

賛同者がどんどん増えて、版を重ねるごとにこのページが皆さんの名前で埋め尽くされたらいいなと思っています。


ライフワークは「化石生物を蘇らせるプロジェクト」

──いろいろな願いがこもった絵本なんですね。

話が前後してしまいますが、先生のご専門は進化生態学と伺っておりますが、どういった研究なのですか。

城田 簡単にいえば生物の進化についての研究です。30代の頃は、生物の「適応」。羽根が動物の目にそっくりの目玉模様を持ったチョウやガがいますね。一体どうやってそういう模様ができたのか、その進化を確かめる、という研究をしました。40代では、新しい種が進化する「種分化」の研究を。50代になった今では、昆虫や恐竜が同じ祖先からどのように進化したかを明らかにする「大進化」を研究しています。

──具体的にはどういう方法で行っているんですか。進化というとダーウィン以来、確固たる仮説としてほとんどの人が彼の進化論を信じていますが、それを実験で証明するのは大変難しいのでは…。

城田 生態学と分子生物学の手法によって、遺伝子レベルから進化の過程を明らかにしていく方法です。実は、私の分子生物学は「40の手習い」で始めたんです。40歳を過ぎた頃から、進化を正しく理解するためには自分で遺伝子を調べるテクニックがどうしても必要だということが分かりまして、まず自分の細胞の中にあるミトコンドリアDNAの塩基配列を調べることから始めました。その結果、自分が弥生人よりも縄文人に近いことが分かったのです。

90年からは「化石生物を蘇らせるプロジェクト」を他大学の先生達と発足させ、化石からDNAを取り出すという実験を行っています。琥珀の中に閉じ込められた何千万年も前のハエなどからDNAを取り出すというプロジェクトなんです。93年にはドミニカ産の琥珀の中に閉じ込められていた3千万年前のハエから遺伝子を抽出することに成功しました。

このプロジェクトは、私のライフワークでもあるんですよ。

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鳥達や自然にやさしく鳥害を防ぐ「目玉風船」を考案

──非常に夢のあるお仕事ですね。

ところで、学者さんの中には、ただひたすら同一の学問を掘り下げていく方もおられます。それはそれで立派なことだと思います。でも先生の場合は、ご研究の中から生き物の世界観そのものを捉えておられるような気がいたします。さらにそこから発展してリンゴの紙をつくったり、森林を守ったりという活動をされているわけですね。

城田 そうですね。本業の研究以外にも、ご存じかと思いますが、鳥から農作物を守るために目玉風船をつくりましたし、95年に始まったNHK教育テレビで放映されている子供向けの科学番組の監修・構成などもやっています。お陰様でこの番組は96年度「日本賞」教育国際コンクールで「放送文化基金賞」を受賞しました。

また、最近、新しい本を書き上げました。タイトルは「かかしの科学とノーベル賞」。

──なかなかユニークなタイトルですね。

城田 先程申しましたように、私は鳥達を殺さず、傷つけず、かつ自然にも影響が出ないようにとの考えから、目玉風船を考案したんですが、このような考えで鳥害を防ぐという発想は、これまではあまりなかったんですよ。

この本の中に書いたのは、例えば、鳥達が非常に個性的であること。鳥達は何に驚くか。私が考える防鳥法。殺される側の論理、そして解決法についてなど。鳥達の立場から人間の営みを見たら、一体どんな風に見えているのだろうか、そんなことを想定して書いたんです。

森や林を切り開き、農薬をたくさん撒き、自然界から虫や小さな動物達もいなくなって、人間だけが幸せに生きていけるのだろうか。そこをもう一度考え直してみませんか…というのがテーマです。


楽しんで物事に取り組んでいるかどうかが基本

──お話を伺っていますと、先程も申し上げましたように、先生は人間の生き方とか、地球生命の問題などに敏感に反応されておられるような気がします。それに研究室に閉じこもるのではなく、いろいろな社会行動に実際に出られている。

城田 たった一つのことしかやらない生き方って面白くないじゃないですか。

いつの頃からか、専門性が重視されるようになったせいか、「会社人間」のように、ある一つのことだけしかしない生き方が要求されるようになっているでしょう。レオナルド・ダ・ヴィンチや平賀源内のように、もっといろんなことを一人の人がする生き方があってもいいと思うのです。

──でも、そういうことができない人もいますから、やはりそういう流派みたいなものがあるのかもしれない


近況報告

近著に「目玉かかしの秘密」(1998年、筑摩書房)。同書は、第45回青少年読書感想文全国コンクール高等学校の部の課題図書に選ばれた。


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