本当の博物館は人々の生活そのもの。 琵琶湖博物館はその「入り口」なんです。

琵琶湖は種のゆりかご

琵琶湖博物館館長

川那部 浩哉 氏

かわなべ ひろや

1932年京都市生れ。60年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。77年より同大学理学部教授に。また同大学の生態学研究センター設立に尽力、センター長となる。今年３月に定年退官し、4月より現職。理学博士。大学院時代にアユの一匹一匹は必ずしも縄張りをつくらず、複数の社会構造があることを発見するなど、アユ社会の研究で世界的に知られる。96年6月には自然保護に功績があった研究者に贈られる「日本学士院エジンバラ公賞」を受賞。著書に『原色日本淡水魚類図鑑』（63、76年保育社）、『カラー名鑑日本の淡水魚』（89年、山と渓谷社）、『共生と群集の組織』（93年、オックスフォード出版会、英文）、『曖昧の生態学』（96年、農文協）、『生物界における共生と多様性』（96年、人文書院）他多数。
※なお、川那部先生は2010年3月末で琵琶湖博物館館長をご退職されました。これまでのご業績に敬意を表すとともに、ご交誼に感謝申し上げます（編集部）

1996年8月号掲載

種の保護・増殖センターも併設

── 日本だけでなく世界からも注目されているわけですからプレッシャーも大きいのでは…。

川那部　何ということはないんですが、来年はどんなことがあっても国際シンポジウムを開いてくれ、という要請が来ています。古い湖における生物の種分化に関するものを、ということなんですが、われわれとしては人と湖との関係を取り上げた方が面白いと思っていますから、むしろ、人間が湖をどう利用して、どう生活してきたかということを含めて、湖の生物と文化の多様性についてのシンポジウムにしようと思い、来年6月をメドに、今動いている最中なんです。

── 博物館の展示内容はその時々でテーマを変えていかれるわけですか。

川那部　企画展示室という部屋がありまして、そこは博物館の研究成果などをまとめて、随時展示できるようにしてあるんです。開館の時は「里山」についてやろうと計画しています。

里山には田んぼもあります。昔は琵琶湖の魚のかなりの種類は田んぼに上がっていって、作付けの頃に産卵していた。アユモドキやワタカやフナなんかもそうです。そういうことが今は極めて少なくなってしまったわけですが、それによってどういうことが違ってきたか。生き物だけでなく、われわれの生活や心の中もどう違ってきたかということも一緒に考えたいと思っています。

── 人と生き物、そしてその土地との関わりの歴史ということですね。

ところで水族展示もかなり大きなものをつくられるとか。

川那部　県の施設で琵琶湖文化館というのがありましたが、それを拡大するかたちでつくります。

また残念ながら琵琶湖には絶滅に瀕している種類がいくつもあります。そういう生物の保護・増殖センターもつくっているんです。そこは一般の人は入れませんが、どういうことをしているのかが見えるようなコーナーが水族展示の中にあります。

── 1日では到底観終わりそうにもないですね。

川那部　自分でいうのもなんですが、そこのところはこの博物館は非常に良くできてまして・・・（笑）、全部見なければ出られない、というかたちではなく、例えば今日は1の展示だけを観るとか、2と3だけを観るといったように、興味のあるところだけ観られるようにもなっています。ただ一番気にしているのは、各々の分野の担当学芸員がとてもがんばっているものですから、あまりに盛りだくさんになってしまわないかという点です。