こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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現代は宇宙を知ることで地球を学び 考える時代です。

人類に希望を与える宇宙開発

文部省宇宙科学研究所助教授

的川 泰宣 氏

まとかわ やすのり

的川 泰宣

1942年広島県生まれ。65年東京大学工学部卒業。現在、文部省宇宙科学研究所助教授、工学博士。専攻はシステム工学・軌道工学。主な著書は『ハレー彗星の科学』(新潮文庫)、『人工の星・宇宙の実験室』(岩波書店)、『軟式テニス・上達の科学』(共著・同文書院)、『宇宙への遙かな旅』(大月書店)、『星の王子さま宇宙を行く』(同文書院)など多数。

1991年1月号掲載


究極の科学は、宇宙、素粒子、そして生命

──先生は「宇宙科学」と「宇宙工学」がご専門と伺いましたが、具体的にはどのような学問なのですか。

的川 まず「宇宙工学」の方から言いますと、私のいる宇宙科学研究所では、昭和30年頃のペンシルロケットの開発以来、固体燃料ロケットの研究をずっとやっています。今われわれの使っているミュー型ロケットは、おそらく固体燃料ロケットの技術では世界のトップ・レベルに達していると思います。

一方、「宇宙科学」の方は研究対象は主に3つあります。まず、一つは自然現象でいえばオーロラが典型的なものですけれども、地球の周辺についてです。最近は人間が宇宙に行くようになって、人間の活動も地球の表面上にへばりつかないで、縦の方向にも延び始めていますね。将来的には400−500キロメートルぐらいまでの空間が、おそらく人間の活動領域に入ってくると思います。

──400〜500キロといいますと、空気はあるのですか。

的川 あることはあるんですが、たいへん薄いですね。500キロというと、水平でいけば東京から大阪までです。それが縦になっただけですからたいした距離ではないんですが、やはり地球の重力と空気抵抗があるからたいへんなんです。そこで単に自然現象を研究するのではなくて、放射線がどれくらい入ってくるか、熱がどうなっているかなど、人間の活動領域として考える。コロンブスの探検ではありませんけれど、人間が生きていくための環境を探る環境科学がたいへん大事な学問になりつつあります。これが第1の研究対象です。

第2の分野は、惑星探査機ボイジャーなんかで皆さんご存じだと思いますが、地球の重力の外へ出て太陽系の中を研究するということです。

そして第3の分野は天文学。ブラックホールなどのような、われわれが絶対に行くことができない星の世界です。実は日本で一番進歩している分野が、このブラックホールとか中性子星とかの分野なのです。

──一番遠い世界の研究が逆に一番進歩しているのですか。

的川 はい。これは間違いなく世界でナンバーワンです。

──科学というものは、仮説を立てて実証していくものですね。そういう意味で、やはり究極の科学は宇宙の科学ということになるのでしょうか。

的川 そうも言えないと思います。一番基本的な科学は宇宙と素粒子、あとは生命。この3つがおそらく究極の科学と言うのではないでしょうか。

ただ、昔は宇宙と素粒子と生命科学はそれぞれが独立的にたいへん大事だと言われていましたが、現在では宇宙の研究が一応基本に座っていて、その研究の中であらゆる基礎科学ができていく。宇宙に出れば素粒子の研究もできる。それから生命の研究もできる。宇宙が大きな実験場という状態になっているのかもしれません。


将来は宇宙をエンジョイする時代に

──おそらく100年前には、今のことなどはSFの世界であったでしょうし、想像もつかなかったと思うんですが、今後はどうなっていくのでしょうか。 

的川 日本人は、人間が宇宙に行くことについてはアメリカ人ほど安易には考えていませんが、日本はロボット工学がたいへん進歩していることもあって、人間より優れた、宇宙で役立つロボットを作り出せると信じている人は結構います。今度TBSのジャーナリストが「ソユーズTM11」で宇宙に行ったり、来年は宇宙開発事業団の毛利さんが「スペースシャトル」で宇宙に行きますが、これからも日本人が宇宙に行くというチャンスはどんどん増えてくるのではないでしょうか。

100年も経つと、修学旅行などは月とはいわないまでも途中の宇宙ステーション位までは行ける時代が来る。ある建設会社の研究会が「宇宙観光ホテル」の構想を発表されましたが、とても魅力的ですね。宇宙観光ホテルに行って、そこで地球と同じように食べたり、お風呂に入ったりする。ホテルの真ん中には、無重力状態の遊技場があって、そこでサッカーや、テニポンというボールを反発させるスポーツなどを三次元で愉しむことができる。将来は、きっと宇宙をエンジョイする時代になるんじゃないでしょうか。ただ一方で、100年後に人間が存続しているかという点では、地球環境の問題とか核兵器の問題等で保証はできませんが


人類に希望を与える宇宙開発を

──なるほど。そうならないためにも、人間は地球もしくは宇宙を研究し、生きるための努力をしなければいけないわけですね。

的川 実際、中には40億年先のことを考えて、かなり虚無的になる学者もいるんです。しかし、本来、宇宙開発は人類に希望を与えるものでなければいけません。たとえ太陽系が滅びても、せっかくここまで生きてきたのだから、やはり生き延びたい。

──ただ、地球が非常に偶然にも生まれた星という意味で、銀河系はおろか、その外へ出て行っても、同じようなものがあるかどうかわからないですよね。

的川 そうですね。しかし、それを今、アメリカでも一生懸命、電波を使って探しています。

「ドレイクの式」という有名な式があるんです。これは、太陽のような星が生まれる可能性とか、その中で生物が出てくる可能性、知的生物が生まれる可能性、その文明がどれくらい存続するかという可能性、その全部の確率を掛け合わせて、この銀河系の中に知的文明人がいる星がいくつあるかを導き出す計算式です。私が計算すると9つあるということになりますが、アメリカのカール・セーガンという人がやると数百あるということになります。まったく一つもないという結果が出る人もいます。人間がどれくらい楽観的になれるか、性格によってずいぶん違うのです(笑)。現在は、まだこういった段階でして、あと100年も経てば、実際にそういう地球外文明人が1つや2つ見つかる可能性はありますね。

われわれの太陽はものすごくありふれた星ですから、こういう星はいくつもあるはずです。地球のような星が1つや2つ生まれたって別におかしくない。

──われわれは、この恵まれた星────地球に住むありがたさをもっとかみしめると同時に、自分たちの星に対して、もっと、関心といたわりの気持ちを持つべきですね。

的川 いずれにしろ、宇宙開発はお金がたいへんかかることですけれども、これからは日本もきっと宇宙開発の予算が増えていくと思います。アメリカもソ連も減っていますから、これから日本が果たさなければいけない役割というのは、みんなで意味をしっかり考えながらやっていく必要があると思います。

──なるほど。その通りですね。今日はどうもありがとうございました。



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