こだわりアカデミー
遺伝子にはスイッチ機能があり、ONにもOFFにもなる。 心と遺伝子は密接につながっているんです。
「笑い」が病を治す?! 「心」と遺伝子の不思議な関係
筑波大学名誉教授
村上 和雄 氏
むらかみ かずお

1936年奈良県生れ。63年京都大学大学院博士課程修了。米国オレゴン医科大学研究員、米国バンダービルト大学医学部助教授を経て、78年筑波大学応用生物化学系教授、99年より筑波大学名誉教授、(財)国際科学振興財団バイオ研究所所長を務めている。パリのパスツール研究所、ハーバード大学に先んじた「ヒト・レニン」遺伝子の解読や、イネゲノムの解読などの功績がある。著書に『人は何のために「祈る」のか』(祥伝社)、『遺伝子オンで生きる―こころの持ち方であなたのDNAは変わる!』、『生命の暗号―あなたの遺伝子が目覚めるとき』、『サムシング・グレート―大自然の見えざる力』(いずれもサンマーク出版)、『生命のバカ力―人の遺伝子は97%眠っている』(講談社)など多数。
2008年11月号掲載
万巻の書に匹敵する情報を一体誰が書いたのか?
──先生は「分子生物学」をご専門に研究されており、これまでに、高血圧を引き起こす原因となる遺伝子「レニン」や、イネの全遺伝子を解読するなど、さまざまな功績を残していらっしゃいます。
本日は、先生の研究を通じてお感じになっていることなどを伺えたらと思いますが、その前に、遺伝子の仕組みについて教えていただけますか?
村上 われわれの体は約60兆個の細胞でできていて、その細胞の一個一個の核の中に染色体があることは、皆さんご存知の通りです。その染色体をほどいてみると、二重らせん状のDNAが存在しており、そこにDNAを構成する4つの塩基文字(A・T・C・G)からなるおよそ30億の膨大な遺伝子暗号が羅列しています。この塩基文字の総数をヒトゲノムといい、そのうちのタンパク質をつくる情報に関する部分を「遺伝子」と呼んでいるのです。そして、その遺伝子はDNA上の全遺伝情報のせいぜい2%程度でしかありません。
──では、そのほかの部分は何なのですか?
村上 残念ながら、今のところ分っていません。しかし、遺伝子暗号はいわば人間の体の設計図であり、極めて精巧、緻密なものですから、まったく無意味なものであろうはずはないと思っています。
そんなある時、遺伝子暗号を見ていた私は、ふと一つの疑問を抱きました。「その万巻の書にも匹敵する程の大量な情報を、一体誰が書いたのか?」と。
──確かに・・・。
村上 私達には両親がいて、その両親にも両親がいて、ずーっと遡っていくと、すべての生き物の元である「親」のような存在がなければおかしい…。では、その親は誰なのか。もちろん、60兆の細胞一個一個のDNAに30億もの暗号を書き込むなんて、人間自身にできるわけがない。すると、目には見えない、自然の力のなせる技で行なわれたことである、としか説明の仕様がないのです。
それを行なった「誰か」を、科学の常識や人知を超えた大きな存在と想定し、私は「サムシング・グレート(偉大なる何者か)」と呼んでいます。
──なるほど。「サムシング」だからその正体は分らない、けれど「グレート」な働きで確かに遺伝子暗号を書いた存在、というわけですね。それが誰なのか、ぜひともつきとめたいものですね。
村上 私もそう願ってはいるのですが、何しろ目には見えないものですから、どう追求しても無理な話で・・・(笑)。
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とかく、今の私達は目に見えるものの価値に重きを置きがちですが、実は、そうした目に見えないもののほうが大切だと私は思っています。例えば「心」とか「命」もそうです。
極端な話になりますが、病気は医者が治すものではなく、医者は「ジャスト・ヘルプ(手助けするだけ)」といわれています。人間の体の中には、あらかじめ「自然治癒力」というメカニズムが組み込まれていて、これが働かないことには病気は治らない仕組みになっている。これも、目には見えない「サムシング・グレート」のお陰なのです。
──「サムシング・グレート」という存在を感じることが大切なのですね。
村上 その通りです。
もちろん、目に見えないものの存在を信じない人もいるでしょう。でも私は、例えば「あの世があるか、ないか」と問われたら、断然「ある」ほうに賭けます。だって、確率は5割もあるんですよ(笑)。
──なるほど。死んでしまったらゴミになると思うか、はたまた、体はなくなったとしてもあの世で昔懐かしい人に会えると思うか…。確率が同じ5割なら、後者のような考えでいるほうが、紛れもなく幸せに暮らせますね。
笑いの力で良い遺伝子のスイッチをONにする
──「病気は医者が治すものではない」と先生はおっしゃいました。では、心の持ち方や環境の違いによって免疫力が上がる…なんてことは現実に起こるのでしょうか?
村上 起こります。
私は現在、「心と遺伝子研究会」という財団で、糖尿病についての研究を進めているのですが、そもそも病気というのは大きなストレスが加わると悪くなるもので、糖尿病もしかり、悪いストレスによって血糖値が上がります。ならば、良いストレスが血糖値を下げてくれるのではないか・・・。こう考え、03年に糖尿病患者25名を対象にした「笑い」の実験を、2日間にわたって行ないました。
すると、私の予想をはるかに超える結果が出たのです。
──というと?
村上 1日目は昼食後に、医学部の助教授による「糖尿病のメカニズム」についての講義を行ないました。専門家でもない患者さんにとっては、退屈で面白くもない話だったことでしょう。次の日は一転、昼食後に吉本興業「B&B」のお二人に漫才を実演していただき、患者さんには大いに笑ってもらいました。
そして、1日目の食前と講義後、同じく2日目も食前と漫才観賞後との血糖値の差を調べたところ、1日目は平均して血糖値が123�咾眈紊�ったのに対し、2日目は77�咾靴�上がらなかったのです。
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| 「笑い」の実験2日目の漫才実演時の様子〈写真提供:村上和雄氏〉 |
──つまり、笑うとか楽しいという精神状態が、病気を改善に向かわせたということですね?
村上 そうなんです。
話は少しそれますが、03年にヒトゲノムはすべて解読されました。とはいえ、先程も申し上げた通り、ヒトの遺伝子の働きが確実に判明しているのは2%程度、言い換えると、残り98%は眠っている状態なのです。その眠っている遺伝子をさまざまな刺激で目覚めさせることに、私は特に関心を持っています。
その意味で先程の実験結果は、眠っている良い遺伝子を「笑い」によってON状態にすることで、インシュリン注射や食事制限に頼らずとも、血糖値を下げることができる、という証明になったのです。
──そういえば、生き甲斐を持てたことで末期ガン患者の余命が延びたという話を聞いたことがあります。これは逆に、ガンの遺伝子の一部をOFFにしたということでしょうか?
村上 その通りです。
「心」と「遺伝子」は、非常に密接につながっており、精神状態や意識の作用によって、遺伝子のスイッチをON/OFFにすることが可能なのです。
──なるほど。では、さらにこの研究を重ねていけば、特定の筋肉や骨を活性化させるために、どの遺伝子をどうスイッチしていけばいいのかが分っていくのでしょうね。今後が楽しみです。
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| 笑いと遺伝子に関する論文が認められ博士の学位を授与された「心と遺伝子研究会」林隆志研究員(中央)との一枚〈写真提供:村上和雄氏〉 |
「笑うネズミ」がいるって!?
──ところで、その他に今、先生が興味を持たれているテーマはありますか?
村上 あります。ズバリ「笑うネズミ」です(笑)。
04年の秋に、ダライ・ラマのもとで行なわれた仏教徒の科学者の会合で、ダライ・ラマや参加していた俳優のリチャード・ギア氏と一緒に酒を飲んでいて、「どうもネズミは笑うらしい」という話が始まったんです。
──え、本当に笑うのですか?
村上 もちろんです!
早速実験したところ、ネズミのお腹をなでたりくすぐったりすると、50キロヘルツの超音波を出すことが分りました。逆に、ネズミが不快に感じると、数値は20キロヘルツになる。つまり、超音波を測ればネズミの気持ちが分るということです。実際、50キロヘルツの時のネズミは、笑っているように見えるんですよ。
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| 50キロヘルツの超音波を出し、笑っているように見えるネズミ〈写真提供:村上和雄氏〉 |
──数値が高ければ、快適度も高いということですね。どーんと上がれば、まさに「笑っている」のかもしれません。
村上 笑いのメカニズムを人間の脳で知ることは、大変に難しいですが、このように動物の力を借りれば、脳の遺伝子のON/OFF機能を探ることも可能になります。
もう1つ、「祈り」と「遺伝子」の関係についても研究を進めていきたいと考えています。祈りは心と関わりが深く、また「魂」に近いところにある。そしてその「魂」は、「サムシング・グレート」の世界とつながっているのでは…。これらの関係を紐解いていくことで、「サムシング・グレート」の謎にだんだん近づいていけるのではないか、と思うのです。
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| 研究室での村上先生。「祈り」と「遺伝子」の関係に取り組み、サムシング・グレートの謎に迫る〈写真提供:村上和雄氏〉 |
──遺伝子をめぐる研究は、生命の謎を解き明かすばかりでなく、人間の未知なる可能性も追求していくことになります。今後の成果に期待しております。本日はどうもありがとうございました。
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| 『遺伝子オンで生きる』(サンマーク出版) |
村上和雄先生は、2021年4月13日にご逝去されました。謹んでお悔やみ申し上げます。
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