こだわりアカデミー
平安時代の女性は自立していて元気印。 現代女性ももうちょっと自信を持って 魅力的になってほしいですね。
平安女性は強くて元気
実践女子大学文学部国文学科教授
山口 仲美 氏
やまぐち なかみ
1943年静岡県生れ。お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修了。文学博士。共立女子短期大学助教授、明海大学教授を経て、現在、実践女子大学教授。古典の文体、擬音語・擬態語の史的推移、ネーミング等に関する研究に従事。NHKテレビ「生きている言葉」、NHK教育テレビ「古典への招待」「現代ジャーナル・日本語」等の講師も務めた。著書に『平安文学の文体の研究』(84年、明治書院)、『命名の言語学』(85年、東海大学出版会)、『生きている言葉』(87年、講談社)『ちんちん千鳥のなく声は』(89年、大修館書店)、『平安朝“元気印”列伝「今昔物語」の女たち』(92年、丸善ライブラリー)等がある。現在産経新聞に『古典往来』を連載中(月1回)。
1994年11月号掲載
『今昔物語』の魅力は表現方法のおもしろさ
──先生の書かれた、「平安朝“元気印”列伝」を読ませていただき、『今昔物語』って、こんなにおもしろい話だったのかと驚きました。テンポもいいし、現代の小説を読んでいるみたいに身近に感じました。
山口 ありがとうございます。そうおっしゃっていただけるのが、一番うれしいんです。
自分で言うのは恥ずかしいんですけど、あの本は、一章一章、論文で書いてもいいくらい、新しいことをたくさん盛り込みました。でも、論文として世に出すよりも、古典の魅力をもっとたくさんの人たちに分かってもらえたらと思って、あんなふうなクダケた形の本にしました。
──実は、あの本に書かれている話の他にももっといろいろおもしろい説話が読みたいなと思いまして、注釈付の『今昔物語』を買ったんです。訳文を読んだんですけれど、意味は分かるんですが、一つはパンチがないというか、ドキドキしない、引き込まれていかないんです。やはり、先生にあの手法で書いてもらわないといけないな、と思いました。
山口 あの本を読んでくださった方は、皆さんそうされるようです。すると、ちっともおもしろくないと…(笑)。
そういう意味では、私なりに原典の魅力をできるだけ多くの方に分かってもらいたいと思って書いた甲斐がありました。『今昔』の説話は全部で1,040あるんでずか、ただそのままを平易に解説していってもおもしろくない。やはり一つひとつの話にはポイントがあるわけですから、その話の持ち味が最大限生かされるようなアプローチ方法で切り込んでみたんです。
──先生にとって『今昔物語』の魅力、おもしろさって何ですか。
山口 表現方法がなんといってもすごいですね。本の中でも紹介しましたが、私たちが想像もできないような表現がたくさん出て来るんです。
例えば「歯より汗出づ」。「歯から汗が出る」という意味ですが、迫力ありますよね。歯から汗なんか出っこない。でも、出っこない歯から冷や汗がタラーリと出るんです。どうしてよいか分からずに途方に暮れている気持ちが生々しく伝わってきます。
「頭(かしら)の毛太りて」もすごい。恐怖感に襲われて髪の毛が逆立った時、普段は意識したことがない髪の毛の存在を突然感じるので、まるで髪の毛が太くなったような気がするという意味です。
──ゾクッとすると鳥肌が立つというのはよく分かりますが、髪の毛も立つんですか。
山口 立つそうです。私も実は最初、その表現はオーバーだと思ったんです。でも、ある時お医者さんに聞いてみたら、それはあり得るということでした。平素の私たちは、立毛筋が神経でコントロールされていて、毛が立たないようにセーブされているんだそうです。
昔の人は今よりももっと感覚的と言いますか、動物に近い部分が残っていますね。ですから、頭に来たり、恐ろしかったりすると、パーッと本当に毛が立ったんじゃないかと思うんです。そういうところを『今昔』は実にリアルに残してくれているんじゃないかと思います。
──なるほど。今の人は使わない表現ですけれど、その様子とか気持ちはよく伝わってくるような気がします。
1997年、小学館より『山口仲美の言葉の探検』を刊行。1999年2月−7月、中国の北京日本研究センター勤務。埼玉大学教養学部を経て、2008年4月より明治大学国際日本学部に
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