こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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日本庭園とは、自然風景をモチーフにした理想郷。 だから海外の人々をも魅了するのです。

日本庭園は美しい小宇宙

大阪芸術大学環境デザイン学科教授

福原 成雄 氏

ふくはら まさお

福原 成雄

1950年京都府生れ。造園家、庭園デザイナー。75年大阪芸術大学芸術学部環境計画学科卒業後、不二アートデザイン事務所、蠱羣庭園研究所を経て、現在、大阪芸術大学環境デザイン学科教授、大阪芸術大学大学院芸術研究科環境・建築教授。日本庭園の歴史研究のほか、世界各国で日本庭園の保存修復、設計、作庭、維持管理、技術指導を行なっている。2001年には、世界でも歴史が古く権威ある英国の園芸品評会「チェルシー・フラワーショー」において仲間と共同出品し、日本人で初となる金賞と最優秀賞を受賞。高い評価を受けた同庭園は、受賞を機にウェールズ国立植物園に移築され、永久保存された。著書に『日本庭園を世界で作る』(学芸出版社)など。

2010年8月号掲載


石一つにも「山」や「神」を表現。計り知れない広大さがある


──先生は、これまで海外20数か所で日本庭園の作庭や修復などに携わってきたと伺っております。

大変権威のある世界有数の園芸展、英国の「チェルシー・フラワーショー」では、日本人初となる金賞と最優秀賞を受賞されました。

福原 ありがとうございます。日本の文化や思想を海外の人達に伝えることができて、大変うれしく思っています。

──日本人の私からしても、日本庭園が高い評価を受けたことは、とても誇りに思います。それにしても、なぜ海外でも日本庭園は多くの人々を魅了できたのでしょうか?

英国の園芸展「チェルシー・フラワーショー」に出展した日本庭園。日本文化特有の自然観を表現している  
英国の園芸展「チェルシー・フラワーショー」に出展した日本庭園。日本文化特有の自然観を表現している
<写真提供:福原成雄氏>

 

福原 私もそれを知りたくて、海外での作庭に取り組む時には、いつも、その国の人々が日本庭園をどのように感じているのか注目しているんですよ。

──世界中にはいろいろな庭園があると思いますが、海外の庭とは何が違うのでしょうか?

福原 ただ単に景観としての美しさだけではなく、例えば、石を組み上げて、滝を表現したり、自然の一部を取り込んで大風景を作っている。また、枯山水では、水を使わずに大海や水の流れを表現したり、石組によってさまざまなものを表しています。

海外からみると、石は石でしかない。でも日本は石一つに、山や神を表すなど、意味を持たせている――石を使って計り知れない広大な世界をみせるすばらしさもあります。

福原成雄

──自然の景色を表現していて、スケールが大きいですよね。

福原 自然をそのまま写すのではなく、より簡素化して庭を作ることで、人工的なものだけれど、自然の雄大さがあり、庭全体が一つの世界観で結び付けられて、見る者に力を与えるのではないかと思います。そこは、西洋の庭園にはない、日本庭園が持つ魅力だと思います。

──確かに、日本庭園の中にいると、心地良くて、不思議と長い間たたずんでいたくなるような、とても豊かな気持ちになれますよね。

素材は現地で調達、スタッフとの意思疎通が重要に

──それにしても、海外での作庭では、職人の技術やコミュニケーションで、いろいろとご苦労がおありになると思いますが・・・。




福原 石材や植物材料に関しては現地で調達しているので、そこまで大変ではないです。庭師の場合は、石に惚れ込み過ぎてしまって、この石はこうでなければいけないと、こだわりが強い傾向がある。でも私の場合は庭園にふさわしい素材を現地で選んで、いろいろなものを組み合せて作っています。

しかし、海外では日本庭園作りの経験者がいないので、現場スタッフに意図を伝えることが大変でしたね。

──それをどうやって乗り越えたのですか?

トルコのスタッフ達と。左から2番目が福原氏<写真提供:福原成雄氏>
トルコのスタッフ達と。左から2番目が福原氏<写真提供:福原成雄氏>

福原 言葉で説明しても限界があるので、とにかく体を使って伝えました。滝を作るために石を組んでいても、彼らは何をしているのか分らない。言葉で指示をしても横柄な態度をとって最初は動いてくれないのですが、だんだんでき上がっていくと、態度が変っていく。そうして率先して動いてくれるようになりました。

──日本庭園の良さが、言葉はなくても伝わったのでしょうね。
それにしても、完成した庭は、その後は現地の方が維持していくのですか? 庭というのは、管理が大変だと思うのですが・・・。

福原 そうですね。海外では、日本のように剪定をやらず、自然は自然のままにしておく習慣があります。

作庭して数年後に訪れてみると、石塔、灯籠が倒壊していたり、樹木も手入れされておらず、日本庭園として十分とはいえないものがたくさんありました。

そこで、あまり維持管理に手間の掛からないように、なるべく自然樹形で育てられる木を選ぶようにして、灯籠なども倒れにくいものを設置しています。

──本来なら、手を掛けて、年を経ることでその美しさ、すばらしさを発揮するのが日本庭園の特質ですよね。



福原 はい。ですから、毎年作庭したいくつかの庭園を訪れて、庭園管理者に、維持管理方法について現場で説明し、指導を続けています。

また、日本庭園文化の理解と造園技術習得のために、海外の造園技術者に日本へ来てもらい、剪定や維持管理の仕方を勉強してもらっています。

トルコとの記念庭園では友好の絆を表現

──そういえば、今年はトルコで巨大な日本庭園を作っているそうですね。

福原 はい。「エルトゥールル号事件」(※)から120年記念に当り、2010年はトルコでの日本年となりました。その記念としてのプロ ジェクトで、両国友好のシンボルとなる日本庭園の設計を担当しました。2・5haの広い敷地で、日本とトルコの交流を庭園で表現していきます。

(※エルトゥールル号事件:1890年、オスマン帝国が明治天皇拝謁のために派遣した650人の使節団を乗せた軍艦「エルトゥールル号」が、横浜港からの帰路に台風に遭遇し、和歌山県串本町沖で沈没。地元住民からの献身的な救助活動で生存者69名が救出された。日本国内でも犠牲者に対する義捐金の募集が広く行なわれ、官民あげての手厚い事後対応がトルコの親日感情に大きく寄与、両国友好の原点の出来事となっている。)

エルトゥールル号事件にちなんで、和歌山県串本町の海岸も表現したいと考えています。

トルコ 日本庭園 作業現場 トルコでは、「エルトゥールル号事件」から120年の記念プロジェクトとして、巨大な日本庭園の建設が行なわれ、2010年7月上旬に完成した。写真は作業現場の様子。(左)トルコのスタッフ達と。左から2番目が福原氏
トルコでは、「エルトゥールル号事件」から120年の記念プロジェクトとして、巨大な日本庭園の建設が行なわれ、2010年7月上旬に完成した。写真は作業現場の様子  

──庭園に両国の絆への思いが込められているわけですね。

福原 これからも機会あるごとに、日本庭園を通した文化交流と、庭園の維持管理を積極的に進めていけたらと思います。

庭園作りで大切なのは「物語」を作ること

──先生が庭園作りで一番大切にしていることは何ですか?



福原 物語を作ることです。やはりただ作るのではなく、庭に壮大な物語を織り込んでいくことで、想像力を刺激する豊かな庭ができると思います。
現地のスタッフもその意味を理解すると協力してくれますし、大切に管理されるようになるのです。

──今後われわれがお寺などの庭を見る時は、どんなところに注目すればいいか心得を教えていただけますか。

福原 作られた方の思いを感じ取るように意識してはいかがでしょうか。庭師は、必ずといっていいほど、何かしらの「遊び」を仕掛けています。池や山、岩などにさまざまなテクニックが隠されていて、庭師の計らいを見付けた時には、心が通い合えたような気になれるでしょう。


枯山水庭園。石橋の手前には、遡上するかのような亀石を配した
枯山水庭園。石橋の手前には、遡上するかのような亀石を配した
<写真提供:福原成雄氏>

──「遊び」を探すのも日本庭園鑑賞の魅力の一つなのですね。
最後に伺いますが、先生にとっての日本庭園とは何でしょうか。

福原 自分がその中に入って包まれたい、理想郷ではないでしょうか。自然風景をモチーフにした美しい小さな宇宙が広がっていると思います。

──先生のお話を聞いて、日本庭園が日本人として誇りに思えるすばらしい芸術であることを再確認しました。これからも素敵な物語を作っていってください。本日はありがとうございました。


近著紹介
『日本庭園を世界で作る』(学芸出版社)

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