こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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発電菌が発見されてわずか10数年で実用化へ。 有望な再生エネルギーとして注目

発電する微生物で燃料電池をつくる

東京薬科大学生命科学部生命エネルギー工学研究室教授

渡邉 一哉 氏

わたなべ かずや

渡邉 一哉

1962年神奈川県生まれ。東京工業大学理学部卒業。東京工業大学理工学研究科修士課程修了。金沢大学にて学位(理学博士)取得。海洋バイオテクノロジー研究所微生物利用領域長、JST ERATO((独)科学技術振興機構)橋本光エネルギー変換システムプロジェクト微生物グループリーダー、東京大学先端科学技術研究センター特任准教授を経て、2011年5月から現職。

2014年11月号掲載


100ml程度の装置があれば、携帯で音楽が聴ける

──先生のご専門は生命エネルギー工学で、微生物を利用してエネルギーを作り出す研究をされているそうですね。驚いたのは、微生物を使って発電ができるとか。微生物といえば、古くから発酵食品や抗生物質などに利用されているのは知っていますが、電気をつくることができるというのは初めて聞きました。

渡邉 微生物の代謝と電気が関係あることは100年ほど前からわかっているんですよ。ただ、10数年ほど前に、体外に電子を放出しながら生きる微生物、例えば「シュワネラ菌」が見つかったことで、一気に研究が進んだのです。

──微生物自体が発電するんですか?

渡邉 発電と聞くと驚かれるかもしれませんが、その原理自体は実は自然界では当たり前のことなんです。

──といいますと?

渡邉 すべての生物は、運動するにしろ身体の組織をつくるにしろ、生きるためにはエネルギーが必要です。人間の場合は有機物を食べて、呼吸によって取り入れた酸素を使って分解してエネルギーを得ています。その過程で、有機物から電子が放出され、酸素がその電子を受け取って水になります。この電子の放出・受け取りがいわば発電と同じような仕組みなのです。

代表的な発電菌の「シュワネラ菌」。無酸素の環境下で電極呼吸ができる〈写真提供:渡邉一哉氏〉

──なるほど、私たち生き物には発電と同じような仕組みがもともと備わっているのですね。


渡邉 はい。それでシュワネラ菌の場合は、酸素がないときに電極に電子を渡す「電極呼吸」をすることができるため、その電子をうまく集めてやれば発電装置ができるというわけです。私たちはその装置を「微生物燃料電池」と呼んでいます。

──自分で電子を電極に運ぶとはまさに発電菌ですね。ただ、微生物の大きさから考えるといったいどれくらいの発電量があるのでしょうか?

渡邉 10cm×10cm×1cmの大きさ、体積で100mlほどのシュワネラ菌を含む培地に有機物を与えた発電装置で、0.3W程度の発電量になります。携帯音楽プレーヤーで音楽が聴けるくらいの量ですね。

──それはすごい! たくさんつないだり、培地を大きくすればもっと大量に発電させることもできそうですね。

渡邉 はい。ただ、現実的には同じ体積で実用化されている電池や燃料電池に比べて、まだ発電効率は10分の1とか100分の1といったレベルです。その意味で、さきほどの100mlの装置はボタン電池ぐらいですね。

廃水処理と組み合わせれば、省電力、汚泥対策などのメリットも

──ところで、先生はなぜこの微生物燃料電池の研究を?

渡邉 もともとは光合成などを行う微生物の研究をしていたのですが、環境やエネルギー問題に社会の関心が高まる中、次第にエネルギーを生み出す微生物に興味が出てきたんです。現在のエネルギー事情を考えると、微生物燃料電池の有用性は非常に高いと考えられますから。

──どういうことでしょうか?

 

渡邉 石炭や石油由来の化石燃料は環境問題や現在の埋蔵量などから見て、持続性という面で弱い。そのた め、今、自然界に存在しているものからエネルギーを作り出すという技術が非常に求められています。さまざまなエネルギー源が考えられますが、中でも微生物 の多様な能力を利用すれば、さまざまな持続的エネルギーが可能になると期待されています。

──具体的にはどのような活用を考えておられるのですか?


渡邉 例えば、廃水処理方法の改善などに役立てられると思います。今、実際に廃水処理と組み合わせた研究を進めています。

──廃水処理ですか?

渡邉 汚水の浄化処理はさまざまなところで行われていますが、原理的には微生物に有機物を分解させて行うものなのです。

──そういえば子どものころはどこの家にも浄化槽があって、「中のばい菌がトイレの水をきれいにしてくれる」と教わった覚えがあります。

渡邉 浄化槽も同じ原理ですね。一般的な廃水処理施設では、活性汚泥法といって、汚水に空気をたくさん送り込んで、酸素を食べる好気性の微生物を育てて有機物を分解させる方法がよく使われています。しかし、この方法だと、空気を入れ込む「曝気」に大きな電力が必要です。さらに、微生物そのものも増加しますので、最終的に沈殿させて取り除き、下水汚泥として廃棄処理しなくてはいけない。しかも、有機物の分解でエネルギーを得た微生物がどんどん増えることで、結局汚泥も増えてしまうという問題があります。

廃水処理で用いた容積約1Lの微生物燃料電池装置。省エネ型の廃水処理が可能になると期待されている〈写真提供:渡邉一哉氏〉

──それはあまりよくありませんね。

渡邉 そこで、微生物燃料電池と組み合わせてはどうかと考えているのです。発電菌は酸素の代わりに電極を使うので、まず曝気の必要がなくなります。エネルギーの一部を電気として取り出してしまうので、微生物そのものの増加も抑えられるんです。

──酸素を送り込んでいた電力エネルギーがいらなくなり、汚泥処理の必要性も減る。なおかつ発電した電気も利用できる一挙三得というわけですね。実用化の目途はもうたっているのでしょうか?

 
 大学の実験室の微生物燃料電池装置。さまざまな条件下の発電量を調べている

渡邉 今われわれがやっているプロジェクトはすでに民間企業も参入していまして、実用も近いのではと考えています。理論はできているので、あとは、いかに電極などの設備コストを下げるかなどが課題です。

──実現が待ち遠しいですね。

電気を食べる微生物。発電菌と組み合わせれば可能性大

──今後はどのようなご研究を?


渡邉 有益な微生物をもっと探し出して研究ができたらいいなと考えています。例えば身近な土の中に存在する微生物をわれわれがどのくらい知っているかというと、実は現在の技術で培養できるのはほんの0.1%に過ぎないんです。

──たった0.1%! ということは、今後の大きな可能性を感じます。

渡邉 はい。微生物の代謝は非常に多様な上、まだまだ未知の部分が大きい。科学的にも大変面白いと思います。実は今、興味があるのは、発電とまったく逆の代謝をする微生物なんです。つまり電気を食べるとでもいいますか。

──そんな微生物がいるんですか!?

渡邉 そうなんです。最近電気から有機物をつくる光合成のような作用をする微生物がいることが分かってきているんです。いわば電気合成といえます。

──将来的に電気から食べ物ができれば、食糧難対策などになるかもしれませんね。

渡邉 そういう考えもありますね。廃水の有機物をもとに発電菌からつくった電気で、今度は私たちが使うことができるきれいな有機物ができるというわけですね。

──それは面白い。ぜひ実現されることを願っています。
本日はどうもありがとうございました。

「田んぼ発電」も実施。田んぼの土の中にマイナス極を、水の中にプラス極を設置すると、微生物が土の中の有機物を分解し、放出する電子がマイナス極に集まり、電線を通って電流が流れる〈写真提供:渡邉一哉氏〉

 



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