こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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火山灰などを活用して、 水質浄化や、磯焼け現象の改善に取り組んでいます。

火山灰で自然環境を改善

宇部フロンティア大学教授 学校法人香川学園宇部環境技術センター所長

臼井 惠次 氏

うすい けいじ

臼井 惠次

1953年生れ。鳥取大学大学院博士後期課程修了。The University of Manitoba(Canada)招聘客員研究員、宇部フロンティア大学附属地域研究所教授、学校法人香川学園理事を経て現職。専門分野は環境社会学、環境化学。環境保全活動の動向研究や、火山灰やフライアッシュを利用した水質浄化剤の開発を行なっている。NPO法人環境共生機構理事長、エコアクション21審査人。その他、山口県環境影響評価技術審査委員、やまぐちエコ市場オフセット・クレジット審査会会長、山口県エコキャンパス取組促進協議会会長、監本環境測定分析協会中四国支部運営委員、宇部市地球温暖化対策ネットワーク低炭素まちづくり協議会委員等を務めている。

2011年4月号掲載


リンや窒素を吸着する新素材を開発

──先生は、環境に関するさまざまな研究をされていらっしゃいますが、その中でも、廃棄物などを利用して、環境の改善を図るという画期的な取組みをされているそうですね。

臼井 はい。火山灰や、火力発電所から排出される「フライアッシュ」と呼ばれる産業廃棄物を有効活用する試みです。

火力発電所から排出されるフライアッシュ。石炭を燃焼する際に生じる灰で、微小粒子からなるため、空中に浮遊する
火力発電所から排出されるフライアッシュ。石炭を燃焼する際に生じる灰で、微小粒子からなるため、空中に浮遊する

──具体的には、どのような方法で活用されているのですか?

臼井 火山灰は、もともと多孔質(無数の穴があって表面積が多い)で、自然にできた穴によって、リンや窒素などを吸収する能力に優れています。リンや窒素は川や海の栄養分でもある一方、多過ぎると富栄養化の状態で水が汚れてしまいます。

そこで、火山灰を利用して、これらを吸着除去してくれる新素材をつくりました。汚染された川などに、この素材を放つことで、リンや窒素がそこに吸着し、結果として水質を浄化することができるのです。

──なるほど。

火山灰といえば、先日の新燃岳の噴火の際にも、健康被害やその処理の難しさなどがニュースで取り上げられていましたね。「邪魔なもの」「迷惑なもの」というイメージがありましたが、水質浄化剤として役立てることができるとは、驚きました。

臼井 さらに、そのようにして栄養分を吸着した素材を、今度は近年問題となっている磯焼け現象が起きた海域に放ちます。すると、藻類を再生させて、環境の改善に役立てることも可能なのです。

──磯焼け現象とは、海岸に生えている海藻が減少して、不毛の状態になってしまうことですよね。

臼井 はい。窒素やリンなどの栄養分が減少して、土壌有機性養分や鉄分が不足した状態となり、魚類の生活や産卵の場である藻場が枯死してしまうのです。

磯焼け現象が進行すると、海藻がなくなり、魚も寄り付かなくなるため、生態系のバランスが崩れることが予測されています。

──漁業にとっては深刻な問題となりますね。


臼井 ええ。例えば屋久島では、広葉樹林帯の伐採をしてからというもの、土壌から沿岸に栄養分が行かなくなり、海藻がなくなる現象が起きています。近くには黒潮も流れていますが、実は、黒潮自体に栄養分は全くないため、魚が寄り付かなくなってしまいました。

──早急な対策が必要ですね。
それにしても、新素材はどのようにして作るのですか?

臼井 火山灰を特殊な接着剤で固めることによって、人体に害がなく、栄養素を上手く吸着する素材を作ることができます。

──フライアッシュも同じような方法で作るのですか?

臼井 フライアッシュ自体は多孔質体ではないため、火山灰とは少し異なる技術で吸着できるものにしました。

それは、接着剤自体を網目構造にして多孔質体にするというものです。フライアッシュは、小さな丸いガラス玉状の微粒子の集まりです。網目にくっつくと、ガラス玉と網目の間に隙間ができ、そこに有機物が吸着します。

この技術によって、フライアッシュも火山灰と同じように利用できることが分りました。

開発された多孔質素材。右がフライアッシュ、左が火山灰を基材としたもの<写真提供:臼井惠次氏>
開発された多孔質素材。右がフライアッシュ、左が火山灰を基材としたもの<写真提供:臼井惠次氏>

都市河川の豊富な栄養分を磯焼けの海域へ

──それにしても、水質浄化の研究には、バイオ技術などさまざまなものがありますが、先生はなぜ火山灰やフライアッシュに着目されたのですか?

臼井 私はもともと理学部出身なのですが、理論ばかりでなく、やはりもの作りがしたいと考え、農学部に進みました。そこで、湖をきれいにする研究などを始めましたが、近年、地球温暖化による海水温の上昇などから、磯焼け現象が多く見られるようになったことを知り、日本の漁業の将来を危惧していました。

──確かに、このままでは水産由来の食料危機にもつながってしまいます。

臼井 そういった現象は一度起きると、回復するのにどのくらい年月が掛かるのか分りません。日本全国で毎年、甲子園球場の約10倍の面積の海域で、磯焼け現象が広がっています。

──そんなに被害が出ているのですか。水産物の宝庫といわれる日本ですが、衰退してしまうかもしれませんね。

臼井 農林水産省では数年前から警告を出していますが、なんら対策ができておらず、漁業に大きな打撃を与えています。

こうした問題の解決に少しでも力になりたいと、現在の研究に至ったわけです。

磯焼け現象が広がる一方で、都市の河川は、逆にたくさんの有機物によって汚れている。全体的にバランスが崩れています。そこで、媒介となる新素材を開発できれば、都市で余っている栄養分を、磯焼け現象が起きている海域で活用することで問題解決にならないかと考えたのです。

──実現できれば、廃棄物の有効利用や、川などの水質浄化、磯焼け現象の改善という、『一石三鳥』の役割を果たすことになる!


臼井 その通りです。3つの問題を同時に解決することが可能なのです。

しかも素材は、高い費用が掛かるものではなく、不要物を活用してできないかとずっと考えていました。

そこで、当時、雲仙普賢岳の噴火で発生した大量の火山灰を思い付いたのです。海に捨てるにも捨てにくく、多くの人がその処理に困っていました。一方、電力会社もフライアッシュの処理に困っていて、もともとお金を出して捨てるようなものですから、再利用できたらと思い、この研究に着手したのです。

学校法人香川学園宇部環境技術センター研究室は、学校法人が運営する全国唯一の環境調査・分析機関。国や地方自治体、民間企業等の委託を受けて、大気、水質、騒音、悪臭等の環境調査や、汚染物質の測定・分析、開発に伴う環境影響の予測・評価等を行なっている

基礎実験は成功。実用化へ向けた段階に

──研究は現在どの位まで進んでいるのですか?

臼井 吸着体自体は完成しているので、いつでも製品化することができます。実は、すでにある電力会社から資金提供いただいて、水質浄化剤として製品化するところまで話が進んでいました。しかし、この素材を日本の漁業のために、磯焼けの対策にまで拡張させてほしいと、私がわがままをいいまして、現在はその研究に取り組んでいるところです。

多孔質素材が水流で流されないように、金属製のカゴに入れて実験を行なっている<写真提供:臼井惠次氏>
多孔質素材が水流で流されないように、金属製のカゴに入れて実験を行なっている<写真提供:臼井惠次氏>

──より環境の改善に役立つ製品化を目指されているのですね。

臼井 一般的に、磯焼け対策の研究は「鉄炭団子」(使い捨てカイロの鉄や炭を、有機物と合せて丸めたもの)を使い、鉄の効果で魚や水草を元気にしたり、炭の効果で水をきれいにするというものが主流です。有効な結果も出ているようですが、実験をしたところ、こちらよりも、私が開発した素材の方が藻類が付着しやすく、より高い効果が現れるということが分りました。

──実際に磯焼け現象の改善に効果は出たのですか?

臼井 現在は、吸着体に藻がくっつくところまで実験が成功しています。後はそれが海藻に成長するところまでいけばといったところです。成功すれば、製造工程はシンプルで量産は可能ですし、材料は余る程あります。

──もう少しのところまで来ているのですね。実現したら、多くの方に喜ばれることでしょう。実用化には、あとどの位?

臼井 藻類ですから成長するのに1年以上は掛かりますが、実験さえうまくいけば、かなり早いのではないでしょうか。

──日本の漁業の将来のために、ぜひとも早い実用化を期待しております。

本日はありがとうございました。



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