こだわりアカデミー

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本対談記事は、アットホーム(株)が全国の加盟不動産会社に向け発行している機関紙「at home time」に毎号掲載の同名コーナーの中から抜粋して公開しています。宇宙科学から遺伝子学、生物学、哲学、心理学、歴史学、文学、果ては環境問題 etc.まで、さまざまな学術分野の第一人者が語る最先端トピックや研究裏話あれこれ・・・。お忙しい毎日とは思いますが、たまにはお仕事・勉学を離れ、この「こだわりアカデミー」にお立ち寄り下さい。インタビュアーはアットホーム社長・松村文衞。1990年から毎月1回のペースでインタビューを続けています。
聞き手:アットホーム株式会社 代表取締役 松村文衞
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極薄アパタイトシート「歯の絆創膏」は、 歯科治療への実用化が期待されています。

歯の絆創膏をつくる

近畿大学生物理工学部電子システム情報工学科教授

本津 茂樹 氏

ほんつ しげき

本津 茂樹

1976年近畿大学理工学部卒業、81年近畿大学大学院を修了。工学博士取得。同大理工学部勤務。93年より生物理工学部教授。2006年学部長に就任。専門は機能材料薄膜の創製とその電子・医療デバイスへの応用。生体が持つ高度な機能に学んで、新材料を人工的に作製。文部科学省の「平成20年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の「産学連携によるナノスケール生体機能膜の創製とそのバイオデバイスへの応用」の研究代表者。レーザーを用いた薄膜化技術で、新しい機能材料の設計・合成から解析・評価などの研究を行なう。歯や骨の主成分であるハイドロキシアパタイトを、薄い膜にして、柔軟性と加工性を持つ材料にコーティングする技術を開発、世界で初めて薄膜シートの開発にも成功した。

2011年1月号掲載


歯や骨の主成分ハイドロキシアパタイト

──この秋、先生を中心とした研究グループで「歯の絆創膏」を開発したという発表を知り、大変関心を持ちました。

調べていくうちに、この研究は、文部科学省の支援事業にも採択されて、医療分野などへの応用が期待されており、先生がおられる大学には、この程、最先端の設備と研究者が集結した施設が設けられたそうですね。

本津 おかげさまで、構内に研究の拠点施設となる「先進医工学センター」を開設することができました。

現在は、他の大学や企業と共同連携して、研究を進めています。

新設された「先進医工学センター」。同センターは文部科学省「平成20年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の拠点で、産学連携による先進的な研究が行なわれている
新設された「先進医工学センター」。同センターは文部科学省「平成20年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の拠点で、産学連携による先進的な研究が行なわれている

──センターでは、どういった研究を進められているのでしょうか。

本津 ハイドロキシアパタイトという素材の薄い膜を作りまして、その膜を使って、さまざまな研究・開発を行なっています。

──ハイドロキシアパタイトというと、歯磨きなどで耳にしたことがありますが、どのような成分なのでしょうか?

本津 歯や骨の主成分で、生物が作り出せる数少ない無機物でカルシウム・リン酸基・水酸基からできています。もともと体の中にあるものなので、生体に馴染みやすいという特徴があります。

そのため、体の欠損や、機能を失った部位を補うための、人工骨や人工歯根などのインプラント基材として注目されているんですよ。

従来は、チタンやステンレス鋼などの金属生体材料が使われていましたが、生体に馴染むのに時間が掛かりますし、細胞の増殖や分化を促進する必要があるインプラント材としては、最適とはいえませんでした。

──ハイドロキシアパタイトで人工骨や人工歯根を作れば、医療分野で応用できるのですね。

本津 そうなんです。

粉末のハイドロキシアパタイトを、焼き物を作る方法と同じように、焼いて結合します。

金属にハイドロキシアパタイトをコーティング
金属にハイドロキシアパタイトをコーティング

ただ、ハイドロキシアパタイトで作ったインプラントは、焼き物と同様、堅いけれども、衝撃などで壊れてしまい、もろいという欠点があります。

そこでわれわれは、金属のインプラント表面に生体と馴染みやすい、薄い膜状のハイドロキシアパタイトをコーティングすることにしたのです。

ハイドロキシアパタイト被覆インプラント
ハイドロキシアパタイト被覆インプラント

──なるほど。そうすることで、生体への馴染みやすさと金属の強さを兼ね備えた、新しいインプラントを作ることができたわけですね。

本津 その通りです。

金属のみの場合に比べて、ハイドロキシアパタイトをコーティングすることで、細胞は約2倍の速さで増殖します。

しかし、コーティングすることができても、膜にある程度厚さがあると、亀裂が入ったり、金属から剥がれてしまうという問題があったのです。

そこで、われわれ研究グループは、極薄の膜を作る方法を開発したのです。

──「極薄」というと、どのくらいの薄さなのですか?


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